2009年6月19日金曜日

書評「風花病棟」帚木蓬生著(新潮社) 

書評「風花病棟」帚木蓬生著(新潮社) 1500円(税別)

現役の精神科医が作家としても活躍する、ということはなにも珍しいことではありません。考えれば思いつく人が多いことでしょう。

著者もその中の一人かもしれません。

ただ、私が読んでみて感じたのは、構成のしっかりした短編を「物語」としての醍醐味を損ねずに供することができる人は著者ほどにはおらなかった、ということです。

10編ある「物語」がひとつもわが身に置き換えられない人はいないと思うのです。医者かそうでないかはべつにしても、です。

戦争、男女間暴力、癌、リタイア、などなど、さまざまな「味」を著者は出してくれます。

その中で私が一番気に入ったのは、「ショットグラス」と「藤籠」です。

「ショットグラス」では、男性からの暴力(社会的、身体的)なものに対して、女性はどう対抗するか、を考えさせてくれます。自分を大切にするとはどういう意味か、ということも、私は考えてしまいました。

「藤籠」では、前半部分は私自身医者になってから悩んだことですが、ラストの段落が衝撃的でした。もしも自分が同じ立場だったら、どれほど自分のなしたこと、ひいては、子どもにとって自分が親でよかったのか、ということも考えてしまうことでしょう。

そうです。この本は「考える」ということを、「味」として出してくれる稀有な本なのです。

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