2008年11月29日土曜日

自分はどうしてほしいのか?

 外来に来てくれた人達がトラブルに会った、と私に話してくれたとき、私はよく「じゃあ、○○さん(その方の名前)は、どうしてほしいのかなあ?」と聞きます。

 このことがはっきりすると、ある程度やることが決まるせいか、気持ちがすっきりするようです。

 そんな私も、昨日ガーンとくることに出会いました。職場の人間関係です。

 諸先輩から見れば、私のしていることは危なっかしく見えるのかもしれませんし、確かに先輩のいうことを素直に聞くタイプでも私はないので、ひとこともふたことも忠告があるのは私にもわかります。でも、それでも、さすがにそういういい方はないのでは、ということがあったのです。

 昨夜からずっともやもやしていましたが、朝起きてから私自身に「自分は、その先輩にどうしてほしいのか?」と問いかけてみました。

 すると、話が非常に単純で「ひどいいい方をしたことを伝えて、私に謝ってほしい」ということでした。

 こうなると話は簡単です。これを実現するために私はどうしたらいいのか、ということを行動に移せばいいだけですから。さしずめ、私は誰かにこの件を相談することになるでしょう。

 今までは、わけのわからないことで延々となやんでいたのです。あの時ああだったから、今になっているのだろうか、などなど・・・。

 でも、悩んでいる私も、外来に来てくれる人も同じ人間なわけですから、同じことを聞いたり、同じことをしていけばいいのです。精神科医になって10年以上たってようやくこのことに気が付きました。長い!

2008年11月28日金曜日

腸炎と肩こり・目の疲れ

藤家寛子さんやニキリンコさんの本で、彼女たちアスペルガー症候群の感覚障害について読んで、これは、私にもある!とびっくりしたことは、過日書いたとおりです。
 
 しかしまた、びっくりするような感覚障害というか、そういうことが起こったのでした。

 私は息子からどうも腸炎をうつされたようで、一昨日から吐き気とおなかのごろごろに苦しんでいました。そして、なぜか昨日から肩こりと目の疲れにも悩まされていました。

 肩こり、目の疲れは私の人生の長い友人みたいなもので、今に始まったわけではないけれども、昨日は特にひどかったのです。

 私の場合、腸炎は疲労が重なるとひどくなります。(蛇足ですが、ここも、すでに「あれ?」と私には思えます。だって腸炎はウィルス感染だから疲労とそう関係あるとも思えないので・・・。確かに抵抗力という意味はあるかもしれないですが)。

 それで、昨日は職場で昼休みに、あいている外来のベッドで寝かせてもらいました。

 すると、吐き気やおなかのごろごろはほとんどよくなって、同時に、肩こりと、目の疲れも良くなったのです!

 これって、皆さんがあることでしょうか?ないんでしょうね・・・。同僚に聞いたら「そんなん、ありか?」と言われましたし・・・(口の悪い同僚なので仕方ないですが)。

 というわけで、今後も藤家寛子さんやニキリンコさんの本から、私だけじゃない!という安ど感を頂けそうです。よかった・・・。

2008年11月27日木曜日

アルコール依存症についての講演

 昨日は、とある公務員の方たちの健康増進講演でした。

 最初は、午後のせいか全員眠そうにされていたのですが、後半には皆さん目の輝きが違ってました。やっぱり興味があるみたいです。

 ちなみにタイトルは「全ては依存症から始まる」というもので、依存症から派生する疾患を伝えていました。

 依存症、この講演では主にアルコール依存症についてでしたが、どんな精神科の病気が関連しているか想像がつきますか?
  1.  児童虐待
  2. DV
  3. うつ病
  4. 不安障害
  5. 摂食障害
  6. けいれん発作
  7. 幻覚妄想状態
  8. 胎児性アルコール症候群
  9. 心的外傷後ストレス障害
  10. ADHD

などなどです。この話をすると、皆さん、目が違ってきました。

2008年11月26日水曜日

書評「急に売れ始めるにはワケがある」マルコム・グラッドウェル著





書評「急に売れ始めるにはワケがある」マルコム・グラッドウェル著、高橋啓訳 ソフトバンク文庫 780円(税別)

だれしも「売れたら」と思っている何かがあるように思います。
私の場合は、意味は若干ずれるにしても、精神科が「売れたらいい」と思っています。

この本 は、何らかの商品が世に出て人気を博するにはどのような要素が関与して働いているのかを検証しています。

その中で私は直接の環境、背景について書かれたと ころが気になりました。
特にp208の模擬監獄の話がとても気になりました。看守役と囚人役を割り当てて、監獄をこしらえるというたったそれだけで、人の 行動が驚くほど変わるのです。

これを、私が「売れたらいい」と思っている精神科に当てはめるとどうなるでしょう。もっというと、べてるの家のある北海道浦 河町と他の場所の違いがさらにわかるのではないでしょうか。

そう考えると、何度も繰り返して読まなくてはと思える本です。




2008年11月25日火曜日

綱渡り

 ちょっと今ホッとしています。

 というのも、26日の講演原稿が仕上がったからです。

 22日も講演で、続いたのですが、結構綱渡りで何とかなりました。今後は、講演予定があってもなくてもパワーポイントで作っておいたほうがいいのかなあと思いました。

2008年11月24日月曜日

書評「自閉っ子は、早期診断がお好き」






書評「自閉っ子は、早期診断がお好き」藤家寛子著 花風社 1600円(税別)

 ニキリンコさんと対談をされていた藤家寛子さんのエッセイです。「そうだったのか!」の連続でした。

 アスペルガー症候群の方は何人にもお会いしたことがあ りますが、その人の世界を語ってもらってはいなかったと改めて思いました。

 藤家さんは世界はシナリオ通りに動いているわけではない、ということに気付いた 時、パニックになってしまったのです。
 そして、こう思います。
 「どうして今頃わかったのだろう。誰かもっと早く教えてくれたらよかったのに。(中 略)おそらく、子どものころに障害が発見されて、認知の仕方を軌道修正するのは、こんな失敗をしないようにするためだ。ところが、私はなんの指導も受けて いなかった」。
 早期診断の必要性が痛いほど伝わってくる部分で、私も一緒につらくなりました。

 でも私も実はそんなふうにある年頃まで思っていましたし、発 達障害があってもなくても、そういうことはあるのでしょうけれども、そこからどうやって違う見方をみにつけていけるのかを、私もガイドできれば、と実感しまし た。

2008年11月23日日曜日

依存症

 昨日はA市で講演でした。そんないい内容でもないと思うのですが、皆さん、とてもいい方でそう言ってくれたのです。

 おそらく、参加している方のほとんどが依存症の当事者か、その家族、そして依存症の人たちとかかわる病院関係者だったからでしょう。皆さん、心が広いのです。

 私のつたない講演はともかく、午後にはA市でマック(アルコール依存症の中間施設)が立ち上がった記念のセミナーがありました。

 新潟県からマックの人たちが応援に来てくれていて、メンバーの人たちがお話をしてくれていたのです。よかったです。その正直さがほんとうに、素敵だなあと思って、私は気持ちが洗われるのでした。

 とくに、施設責任者の方のお話がたどたどしくて、そこが本当によかったです。ここだと、見栄も世間体もないし、安心できるのです。

 そして、私も依存症になっても安心だなあと思って帰宅しました。

2008年11月22日土曜日

肥満児の動脈は中年並みに老化している

肥満児の動脈は中年並みに老化している 医療一般 | 医療ニュース | CareNet.com

うーん、恐ろしい。

しばしば私もブログにしていますが、5歳児健診では肥満も問題になります。
実感として、肥満の子どもは自尊心があまり高くないです。だから、物事に積極的になれないですし、周りからからかわれて、自分がいやになりがちですし、どうしていいのかわからないという感じがあります。

でも、我が家の息子も4カ月検診で同僚の小児科医から「どうしたの、こんなに太って!!」と言われてしまいました。だって、飲みたいだけ母乳もミルクも飲ませなさい、と小児科で指導してるじゃないですか・・・と声が小さくなりましたが・・・。たしかに、カウプ指数(大人のBMIと思ってください)が、20を超えているのはまずいですよ。でも、いいのかなって思ってたのに・・・。私に衝撃が走りました。

でも今は、それほど太っていないので、ちょっと安心です。手足が細くなり、お腹だけがぽこーんという感じです。

将来的に、肥満にならないようにしてあげたいのですが・・・。
私も、どうしていいのかなあと思ったりしています。

2008年11月21日金曜日

失敗

 ずっとブログをかけずにいました。ご心配かけました。

 他にもブログがあって、その役割分担を考えているうちに日々の忙しさにまぎれてしまいました。今は、それもある程度決まり、何とかやっています。

 それにしても昨日はへこみました。

 ある外来受診されている人の学校の先生とお話しさせていただいたのですが、そのお話の中でその人が
  1. 大きい音を怖がる。
  2. 男性を怖がる。
  3. 男性から誰かが叱られているところをみると泣いてしまう。
  4. DV家庭に育った。
というのを聞いたからです。
 
 その人は、外来で
  1. リストカットをしてしまう。
  2. 全然眠れない。
  3. 興味を何に対しても持てない。
と言っていたのです。うつ病を私は疑っていました。

 ところが、学校の先生方の話を総合するとこの人の診断が、PTSD(心的外傷後ストレス障害)となってしまいます。御両親は離婚されていて、おかあさんは虐待しているわけではないので、現在は安心できる環境のようですが・・・。

 あー、この人から信用されるような付き合いができてなかった!そして、話を聞き出せなかった!と後悔しきりです。

 学校の先生は、「私も、リストカットのことはつい最近教えてもらったので」と、私を慰めてくれましたが、医者として10年以上やっていたのに、このていたらくかと思うと情けなくて・・・。

 まだまだです。初心に帰って、もっと話しやすい雰囲気や状況を私が作らなくては。

2008年11月19日水曜日

女性医師の継続的就労に向けての取組み

産科医療のこれから: 女性医師の継続的就労に向けての取組み�

私psychoは産休・育休あわせて半年取りました。その後、復帰しました。

そのときに、いま外来に来てくれている人達は、近隣の精神科に行ってもらったり、勤務している総合病院の心療内科では、開業している先生にきてもらったり、という状況で、乗り切りました。

私は、医局とはつながりがないので、そのぶん別なつながりで周囲の人に産休をもらいました。

私はとてもラッキーだと思います。日経メディカルなどを読めば、私の状況がかなり恵まれていると、実感できます。

でも、近隣の女医さんたちとお話しすると、これがラッキーでは少子化のままだろうという結論になります。私も、サポートしますので、どんどん産休と育休をとれたらいいのに、と思います。

2008年11月17日月曜日

健診の意義

 今日は、五歳児健診に行ってきました。

 前回9月30日と同じスタッフメンバーでした。その中で、行政関係の人に、この検診で私が最近気がついたことを話しました。

 5歳児健診で、就学時の方針が決まることが多いと私は思うのです。だから、逆算して、3歳児健診である程度親御さんたちに、なんとなく発達障害の可能性を伝えるようにしてほしい、ということです。

 私の実感では、就学=学校での生活というのは、発達障害の子供たちにとっては結構ハードルが高いようなので、5歳児健診で特別支援を要請するかどうかが選択肢の中にあれば、学校が楽しくなる可能性があると思えるからです。

 もっというと、サポートの先生がクラス全員の子どもたちのサポートに入れる感じだといいなと思うのです。そうなれば、もっと発達にばらつきのある子どもたちも、楽しく暮らせるだろうと思うからです。

 そんなふうにして5歳児健診を活用してほしい。そう思っているのですが・・・。実際はこの健診に反対している小児科の先生も多く、むしろ幼稚園や保育園単位で園のお医者さんが実行したらいいという意見もあるようです。ただ、私にしてみると、幼少期の私のように幼稚園にも保育園にも行っていない子供はどうなるのかと不安になるのですが。

 いずれにしても、子どもたちのために、健診制度を整えたいものです。

 

2008年11月16日日曜日

おゆうぎ会

 おゆうぎ会、昨日だったのです。

 その直前にビデオカメラを買いました。あんまり直前過ぎて、昨日の早朝4時に起きて操作できるように説明書を読んで、ぎりぎり間に合いました。

 息子を一生懸命撮って、その前に私は自分の座っている膝なんかを撮っちゃったりして・・・。後で見て、これは何だろうと思って、笑いましたが。

 終わったら、もうビデオの操作でいっぱいいっぱいだったのでくたびれちゃいました。

 息子は、緊張して踊れなかったようです。でもいいのです。それもかわいいという親バカですから。

2008年11月14日金曜日

目に見える効率を追いすぎると、大切なものを見失う


目に見える効率を追いすぎると、大切なものを見失う。:NBonline(日�

別のブログ(http://d.hatena.ne.jp/riesakakida/20081027)に、以前に書いたことを思い出しました。

確かに効率を求めることは必要です。けれども、行きすぎるとそのときに失うものがあるのです。

効率を求めすぎると、精神障害を持つ人はいらない、そういう発想に行きつくように思えて、こわいです。ナチスドイツはそうでした。

おそらく、効率を求めることを突き詰めると、ある時点から効率が目的となってしまい、いったい何のために効率的になることが必要だったのか、わからなくなるのではないでしょうか。言い古されたことだとわかっていますが、そう思わずにいられません。

私自身の考え方が、効率を求めすぎないようにと日々思っているのです。

そのために私がしていることというほどのことでもないですが・・・。

私は日課を作ってそれをこなすようにして暮らしています。冒頭にある本で、藤家寛子さんが著書「自閉っ子は、早期診断がお好き」(花風社)で書いておられたように、日課があると楽なのです。効率的に文献を読めるし、勉強も効率が上がりますから。


   

ただ、息子と一緒だと、日課をこなすのがままならないことがしょっちゅうあります。

もうそんな時は、「日課をこなすばっかりだと、新しいことに出会えないから、それで息子もしくは神様が、日課じゃなくて別なことしなさい、って言ってるんだ!」と言い聞かせて、心の平穏を保つのです。

書くと、つまらないことで当たり前のように思えるかもしれませんが、そうしない頃はイライラしどおしだったので。

そうすると本当に思いがけないことが起こって、楽しかったり、別なうれしさがあるのです。

私は、これを「息子もしくは神様からのプレゼント」と言っていて、日課が消化できないときに、ぶつぶつ言ってます。

これ、意外と私にはあってました。

2008年11月13日木曜日

家族とは



クロスする感性〔第13話〕 ソウル・ファミリー,魂の家族

宮地尚子=文
 一橋大学大学院教授・精神科医ケンブリッジ・ヘルス・アライアンス客員研究員


1年間の滞米生活が終わり,日本に帰ってきて1か月。あっという間に日常に埋もれてしまっている。  
 帰国当初は,駅の改札の人の流れにうまく乗れず,恐怖を覚えたり,エスカレーターの真ん中で立ち止まって,後ろからつつかれたりした。また,白々と夜が明けるのを眺めながら,時差ぼけの冴えた頭で,どれだけ技術革新が起きても時差と季節の逆転だけは残り続けるなあと,地球規模で(?)ものごとを考えたりしていた。  けれども時差が治るにつれ,大学院の入試やら,冬学期の講義準備やら,依頼原稿の執筆やら,次々と仕事が迫ってきて,のほほんとしていられなくなった。
 米国から持って帰った数十冊の本は,なんとか古い本を移動させて書棚に納めたが,資料は一つの大きな袋に入ったまま,必要なものだけそのつど取り出している状態だ。  
 とにかく,今済ませなければいけないことから済ませるしかない。そのためには,米国で考えていたことや,日本に帰ったらしようと思っていたこと,調べようと思っていたことなどは,とりあえず棚上げにするしかない。落ち着いたら手をつけるつもりだが,たぶんずっとこんな調子で仕事がふりかかってきて,落ち着くなんてなさそうだな,意識的に時間を作るしかないな,と思う。 滞米生活を振り返る もちろん,米国で学んできたことや考えてきたことは,必ずしもまったく新しい形で仕事になっていくのではなく,同じように見える仕事の内容に深みを与えたり,新鮮な見方が加わるという形で役立つには違いない。また自分がいた場所を離れて,外から見直す機会を得られたことには大きな価値があったと思う。これまで自分がしてきたことを相対化し,これからの方向性を,その場の限られた視野からではなく俯瞰的に,長い目で考えることができるようになった。  
 久しぶりに会った人たちから「アメリカはどうだった?」「目的は達成された?」「研究は成果が上がった?」「有意義な1年だった?」「充実した毎日だった?」と口々に聞かれる。やっぱり有意義で充実してなきゃいけないんだなあ,のんびり,スカスカじゃだめなんだなあ,そういうのは「無駄」とみなされるんだなあ,とひそかに反発を感じながら,でもまあ素直に質問を受け取ることにする。  あらためて振り返ると,けっこう忙しく,充実していたとも言える。ボストンで私の受け入れ責任者となってくれたトラウマ臨床の第一人者,ジュディス・ハーマン史とは毎月濃密なディスカッションができたし,研究会に参加して専門領域全般の知識をアップデイトすることもできた。自分の研究についても洞察が進み,さらなる問いが生まれた。ニューヨークとカナダでは学会発表をしたし,ペルーにも行った。
 そしてこの1年で新著を(3冊も!)出した。「偉いぞ,自分!」と褒めてやってもいい気がする。  
 うーん,でももう少しじっくり考えてみる。この一年間でいちばん大きな収穫って何だろう。後々まで残るものって何だろうと。そうすると,今リストアップしたようなことは表面的なものに思えてくる。
 そして,一つだけ選ぶならあれだな,マイクとトムとの交流だな,と思う。 二つの大きなダイヤモンド 
 今回,ハーバード大学が私の受け入れ機関だったのだが,家族の都合もあり,私はニューヨークの郊外に生活の拠点を置いていた。そして,月に2度ほどボストンに行っては数日間過ごし,研究会に参加したり,研究に関連する人に会ったりしていた。  
 ボストンではマイクとトムの家に居候していた。彼らは,私にとってはソウル・ファミリー=魂の家族のようなものだ。  彼らは二人ともカウンセラーで,性的虐待を受けた男性のセラピーを専門にしているので,私の研究テーマとぴったり合う。
 彼らと知り合ったきっかけも,2001年にニューヨークで行われた,男性の性被害についての学会だった。マイクは元・人類学者で,若いころはマーガレット・ミードの弟子だったという変わり種である。トムは大学でソーシャルワークを教えている。二人は私より10-20歳近く年上で,ゲイ(同性愛者)で,10数年来のカップルである。マサチューセッツ州では同性間の結婚が認められており,彼らも結婚している。  
 彼らと一緒に過ごしていると,自然とゲイの友だちが増える。彼らの住むジャマイカ・プレインという地域は性的マイノリティに寛容で,ゲイの多いおしゃれな街として知られている。隣の家にはマーサとキムというレズビアンのカップルが住んでいる。マーサは精神科医,キムはソーシャルワーカーで,私がいる間に,タイラーという男の赤ちゃんを養子にした。以前から養子斡旋機関に登録していたのだが,ある日突然電話がかかってきて,赤ちゃんが生まれたけど,お母さんが育てられないからどうかと言われ,急きょテキサスかどっかに迎えに行くことになったという。それ以来,やれ,首が据わった,ハイハイしだした,熱を出した,と大騒ぎをしながら二人で仲良く育てている。マイクやトムも,おじさん気取りでタイラーくんをかわいがっている。  
 同性愛者たちをめぐる日本の状況といかにかけ離れているかをつい忘れて,ボストンの話をすると,みんなに驚かれる。けれども,ボストンでは彼らの生活があまりに自然で,無理がなくて,同性愛という「特殊性」はほとんど意識に上らない。そして,家族を作っていくことの意義もごく当たり前のように受け入れられる。  
 同性愛者どうし一緒に住みたければ勝手に住めばいいのに,なぜわざわざ結婚という制度が必要なのか,という議論もある。でもマーサとキムのように一緒に子どもを育てたいと思えば,ある程度の制度は必要になるだろう。またトムは2年ほど前に大動脈弁閉鎖不全がみつかり,大手術を受けた。もしその数年前にマサチューセッツ州が同性間の結婚を認めず,彼らが結婚の手続きをしていなかったら,マイクはただの友人としかみなされず,トムの病気や手術について病院から何の情報も与えられず,術後に付き添うことも許されなかったに違いない。  
 言うまでもなく,私は彼らがゲイだから居候させてもらっていたわけではない。二人ともとても気が合うから,そして彼らもそう思ってくれるから一緒にいただけである。とはいっても女性にとって,異性でありながら,自分に性的な眼差しを向けてこないゲイの男性は,貴重な存在でもある。ずっと以前に観た外国映画に,「ゲイの友人を持つのはダイヤモンドを持つようなものよ」というせりふがあった。とすると,私は大きなダイヤモンドを二つも持っていることになる。 成長過程とファミリーの再構成 ジャマイカ・プレインは自然が多く,マイクやトムと池のまわりや森林公園を散歩しながら,よくとりとめもなく話をした。カウンセラーなのだから当たり前ではあるが,二人とも話を聞くのがうまい。私が英語で表現できない複雑なことも,適切な問いで明らかにしてくれる。そして甘やかしはしないが,とても褒めてくれる。私が日本での臨床再開について相談したときも,「君に診てもらえる患者さんはラッキーだと思うよ」という励まし方をしてくれて,びっくりした。  
 人は皆,親や家族を選べない。産み落とされた人間関係の中で成長するしかない。けれども20代,30代以降の人間の成長とは,自分なりの感性を磨き,波長の合う人たちとつながり,ソウル・メイトやソウル・ブラザー,ソウル・シスターとして関係を育みあい,血縁も国籍も性的指向も抜きにしたソウル・ファミリーを作っていくことなのかもしれないと思う。  マイクとトムだけでなく,私のソウル・ファミリーは世界に広がっている。そのことの有り難さを思うと,呆然とさえする。タイラーくんの場合は,産み落とされたときからソウル・ファミリーの中にいるのかもしれない。そして血縁でつながった家族も,成長の中であらためてソウル・ファミリーの一員として,選び直されていくのかもしれない。

宮地尚子 1986年京府医大卒。医療人類学と出会い,89年から3年間,米国に留学する。帰国後,医学部の教員を経て,2001年より現職。07年秋より1年間,フルブライト上級研究員として再び渡米し,暴力被害者のトラウマ治療で名高いケンブリッジ・ヘルス・アライアンスに所属(客員研究員)。近著に『環状島=トラウマの地政学』(みすず書房),『医療現場におけるDV被害者への対応ハンドブック』(明石書店,編著),『性的支配と歴史――植民地主義から民族浄化まで』(大月書店,編著)。


(以下、psycho)


 この記事を読んで、宇仁田ゆみ著「うさぎdrop」を思い出しました(冒頭のイメージ)。
 
 この本自体は、かなり面白い。祖父の隠し子を、孫が育てるという、何がなんだか分からないようなものだけど、それは絵にすると違ってくるのです。
 
 この記事では、同性愛のカップルが養子をかわいがっているくだりがあって、子どもをかわいがるという、それが共通点です。そもそも日本では養子をということも特殊と言えば特殊ですが。
 家族とは、もともともてるけれども、あえてもとうとすることも出来ると思います。
 家族をあえてもとうとすること。それを、日本はもっとプラスに評価していいのではないでしょうか?



2008年11月11日火曜日

「おかあさんががんになっちゃった」

書評「おかあさんががんになっちゃった」 藤原すず著 メディアファクトリー 950円(税別)

 マンガです。
 
 まえがきにもあるように、がんを克服した本ではありません。

 でも、著者の「おかあさん」は本当に満足した暮らしをしていったのではないかと思 える本でした。
 
 家族の苦労、治るためなら何でもしたい、してあげたいという気持ちが書かれている本です。

 特にこの本では、がんセンターのかかわりがとても よくて、主治医の松本先生が、ユニークで楽しく、でも「治療ができなくてくやしい」と心情を吐露したり、と、とてもすてきにえがかれています。
 
 そして、お かあさんのがんの受け止め方、とてもいいなあと思いました。「(がんが)消えなくてもいいんですよ。このままの大きさでずっといても。がんも私の一部ですからね。あんまり嫌ってもね」。

 どうして、お母さんががんになったのか、と逡巡する著者。そして、そのお母さんとの日々を大切に過ごしていくのです。あとがきも秀逸です。

2008年11月10日月曜日

書評 「3つの真実」




書評 「3つの真実」 野口嘉則著 ビジネス社 1238円(税別)
 
 この本はビジネス書でしょうし、 ほとんどの人はそのような目的で読むと思います。

 しかし、私は興味が惹かれた点は、違いました。

 この中で主人公の家族にうつ病、不登校があったのです。つ まり私は、これらの疾患を持つ人の家族で、その人たちにどのように接するか、その人たちがもしもこの主人公のような物質的成功や効率主義を重んじる人の場 合、どのように話をすればいいのかをこの本から読み取れたのです。

 そうすると、主人公には家族のうつ病や不登校を「理解せよ」と進言したり、彼の態度を非 難してはいけないのです。この中に登場する老人のように、相手に心を開いてもらうために、どうしたらいいのか・・・。

 いえいえ、「相手に心を開いてもら う」ことはできないのです。なぜなら、「心を開く」のは相手だからです。
 相手からいかに、信頼してもらうか。一言ではまとめられないですが、それがこの本に書かれていると私は思っています。

2008年11月9日日曜日

オバマさん

(2)シカゴ オバマを鍛えた貧民街:NBonline(日経ビジネス オンライ

 私は基本的には、政治、ことに自分の国以外の政治には興味をあまり持っていません。自分の仕事は精神科医だからと思っているからです。

 その良否は、それぞれの意見があるでしょうが、それはとりあえず保留です。

 そんな私は、新アメリカ大統領のバラク・オバマさんのことが気になっていました。知り合いでも何でもないのですが、オバマさんが地域活動をされてそこから大統領になろうとしたことを、知ったからです。冒頭の記事はそれを読みやすく、リアルにまとめてくれたもので、読んでいて改めてオバマさんへの期待が高まり、好感が強くなりました。

 この記事のタイトルも気に入ってしまったのです。

 というのも、私は精神科医として北海道浦河町のべてるの家のメンバーに鍛えられたと思っているからです。自分がどれほどの精神科医か、といえばまだまだのレベルですが、確かに新前を鍛えるのにはふさわしい場所でした。

 べてるのメンバーは、自分の思いをどんどん相手に伝えます。私に対する批判ももちろんありましたし、当時は新前だから批判があって当たり前とはとらえられず、自分自身が否定されたような勘違いも多々ありました。

 そのうちに、人の話を聞くのは面白いものだな、と思えたのです。私自身は新前ですから、特に何ができるということもないのですが、話を聞いていくことはできました。すると、相手の大事にしているものがよくわかり、それを自分も理解したと伝えていくことを繰り返していました。

 妙なことですが、そうしているうちに、相手が変わるのです。

 この記事では、オバマさんは当然精神科医ではないので、話を聞くことだけがいいとは思わずに別の手法で相手とさまざまな地域活動をしたということが書かれていますが、基本は同じかもしれないと思えました。

 オバマさん、昨日のニュースで娘さんのために犬をお探しされていると聞きました。ただ、その条件が(1)娘さんのアレルギーを悪化させないこと(短毛種がいいのではないでしょうか、と私は思いましたが)
(2)施設に待機している雑種の犬であること
ということでした。

 我が家の犬の系統をお勧めしたかったのですが、(1)にはマッチしましたが、残念ながら(2)にはあてはまらず・・・。

 それはさておき、冒頭の記事でオバマさんには意外かもしれませんが、私は共通点を勝手に感じてました。

2008年11月8日土曜日

マイナートランキライザーと依存症

薬の診察室 (朝日新聞家庭欄に2001年4月より連載)  医薬ビジランスセンター
                                  浜 六郎


 言葉を失うような不幸な事件が大阪で起きた。
 小学校の児童殺傷事件。今回は、この事件で話題になっている精神安定剤について考えてみたい。 

 事件直前の精神安定剤服用は否定されたようなので、事件への薬の影響を云々(うんぬん)できる段階ではない。ただ、精神安定剤は、本当に必要な人だけでなく、非常に乱用されている薬である。
 病院にかかっている人のほぼ3分の1は、なんらかの精神安定剤を使っている。
例えば睡眠薬はすべてこの仲間だ。精神安定剤のために、かえって精神が不安定になっている人も本当に多いのだ。

 
 精神安定剤には、精神分裂病に使う系統=神経遮断剤と、不安や強迫感などを主体とする神経症(ノイローゼ)に使う系統=抗不安剤がある。


 前者は以前、メジャートランキライザー(強力安定剤)と呼ばれたように、文字通り効果も副作用も強力。
 一方、後者は、マイナートランキライザー(緩和安定剤)と呼ばれたが、では「軽い」「やさしい」だけかと言うとそうではない。非常に早く効く強力な睡眠剤もこの系統の中にあり、名前に似合わず、その害は重く大きい。


 例えば、10年ほど前にも問題になったトリアゾラム(商品名ハルシオンなど)。飲み始めは素早く眠れ、目覚めもよいためやみつきになりやすい。高価格で裏取引もされている。

 だが3時間ほどしか効かないから夜中に目覚め、かえって眠れなくなる。常用すると効く時間は短くなり、必要量が増し、依存症になりやすい。昼間も判断力や記憶力が落ちて、イライラや不安が募り、興奮しやすくなる。高齢者は痴ほう症状が現れることもある。

 依存症になって、急にやめると、禁断症状として痙攣(けいれん)や幻覚まで生じる。アルコールとそっくりだ。


 深酒で本当に記憶がなくなることがあるように、この系統の睡眠剤を飲むと、途中目覚めた時など、一見ふつうに行動しているのに、本人はしたことを全く記憶していないことがある。「前向き健忘」現象だ。

 米国では、依存症になった人による射殺事件も起きた。
英国やオランダではすでに禁止したが、日本では依然ごくごく一般的な薬だ。
安定を求める薬が社会の安定を脅かす、そんな「薬害」に早く気づいてほしい。



(以下、psycho)

 外来に受診している人たちの中で、最近明らかにある特定のマイナートランキラーザーを処方するのはまずい、という状況に久しぶりになりました。

 他の病院から私の外来を紹介されてきてくれている10代の女性なのですが、ある特定のマイナートランキライザー(仮にHとします)があれば、安心するし、パニック発作も起きないという人でした。別の症状もあって、ずっと県内のあらゆる精神科病院に受診した人です。それで、新しい薬は絶対に嫌で、H出なくては駄目、と言っていたのでした。

 自分が間違っていたらいいなと思うのですが、これは、もしかしたらHという薬の依存症ではないのだろうかと思うのです。

 その薬がないと、安心して暮らすことができず、だんだんと飲む回数が増えている(一日で)ということです。さらに、私はそのHという薬を頓服でしか処方していないので、それでは足りないと言って、もっと出してほしい、と話してくれているのです。

 余計なお世話だろうなと思いつつ、依存症になってしまったらお互い辛すぎるので、依存症になる可能性があってと話してみました。

 「そういう依存症になる可能性があるのだから、私はこの薬を出すのが怖いし、出したくないんですが」私がそういうと、その人は依存症の人が必ず言ってくれる言葉を出しました。
 「私は、そんなことにはなりません」。

 いったい何回くらいその言葉を聞いたでしょう。その言葉を信じて、何回くらい薬を処方して、依存症の病をさらに深くして私は後悔したでしょう。

 私はため息をついて言いました。
「その言葉を信じたいけれども…。そうはならない人ばかりで、・・・。私もつらいところで・・・」
かなり歯切れが悪かったのですが、仕方ないとしか言い訳が思いつきませんでした。

 その人はその時は別な薬を飲んでみると言って外来から去りました。次の予約の時にどうなるんでしょうか。今も不安です。

2008年11月7日金曜日

早期教育がはじまる!?

英語力つくと「省エネ脳」 学習期間で活動に差
このニュースについての掲示板

記事:共同通信社
提供:共同通信社

【2008年11月6日】

 小学1年から英語を学んだ中高生は、中学から学び始めた生徒より、脳が働かなくても英語を理解できるとの研究結果を酒井邦嘉(さかい・くによし)東京大准教授(言語脳科学)らがまとめ、5日付の米科学誌に発表した。

 酒井准教授は「英語力がつくほど、考えなくても答えが出る『省エネ脳』になることを示している。6年以上、英語に接する重要性を示唆するものだ」と話している。

 小学1年から毎日英語の授業を受けた中高生12人と、中学から勉強を始めた18人を対象に、脳血流の変化を測る機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)を使い、英語の文法問題を解いている最中の脳の活動を調べた。

 両グループの成績の平均値に大差はなかったが、中学からのグループでは、成績の良い生徒ほど文法をつかさどる左脳の中枢の活動が活発化。逆に小学校からのグループは成績の良い生徒ほど活動が盛んでなかった。

 英語習得の初期にはこの文法中枢の活動が高まり、英語力が定着するほど文法中枢を使わなくても英語を処理できるようになってくるためだとみられる。

注)米科学誌はHUMAN・BRAIN・MAPPING


(以下、psycho)

 この記事を読んだお父さん、お母さんたちは、「やっぱり、早期教育は大事だ」と感じる可能性は高いのでしょう。そして、早期教育に英語を、という潮流が主流となるのかもしれません。

 私はどっちでもいいや、といういい加減派なので、あまりそう感じないのですが・・・。

 ただ、普段外来で来てくれる人たちとお話ししていると、気になるのですが、ほとんどの方の抱いている感想です。
 「発達障害は、治りますよね?訓練で、普通の子たちと同じようになるんですよね」というものです。

 現在の発達障害のとらえ方としては、一言では「一生もの」です。ただ、発達障害になぜなるのか原因が分からない以上、どんなふうになっていくのかは予想と、これまでの諸外国での研究や報告の蓄積でしかわかりません。だから、「治る」かもしれませんが、おそらく前述の研究から考えて「一生もの」の可能性が高いのです。

 ただ、日本だけなのか他の国や文化圏がそうなのかわかりませんが、「人間、鍛えれば、勉強すれば、頑張れば、望ましい方向に変化する」という思考が、非常に多いように思います。

 発達障害が「治る」、しかも「療育して」「頑張れば」「治る」という考えは、そういうところからきているのでしょう。

 早期教育も、人間が人生の「早期」で、「頑張って」「鍛えれば」「望ましい方向に変わる」と考えているからできることでしょう。

 それはそれで素晴らしい考えです。でも、それだけでいいのかな、と私は思ってしまうのです。

 じゃあ、今暮らしている発達障害の人たちは、頑張らなかったの?療育しなかったの?という疑問がわきます。そんなはずはないんです。頑張らなかったのでもないし、療育しなかったわけでもないでしょう。

 早期教育や、「頑張れば望ましい方向に人間は変化する」という考えだけを推し進めるのは、辛くはないかなと思うのです。

2008年11月6日木曜日

誤診って…

シリーズこころ これ、統合失調症?
http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/renai/20081029-OYT8T00167.htm

医師の問診不十分で誤診


統合失調症と誤診された患者に処方された1か月分の薬。抗精神病薬など13種類にのぼった

 妄想や幻覚が表れる統合失調症で、治療を受けている患者は約70万人にのぼるとされる。一方、うつ病など心身の不調で受診したところ、統合失調症と誤診され、適切な治療を受けられない例も少なくない。

 東京都の男性会社員(55)は、その一人。2005年秋、ひどいだるさや不眠に悩まされ、仕事の集中力も低下してきた。

 そればかりではない。「社内での会話を盗聴されているのではないか」とおびえ、妻(48)を「スパイじゃないか」と疑いさえした。

 近くの病院の精神科を受診した。待合室で数枚の問診票を渡され、現在の心理状態に一番近い項目を選ぶように言われた。「被害妄想がある」といった項目に「○」印をつけた。

 診察室に入ると、30歳代と思われる男性医師は、開口一番言った。

 「統合失調症ですね」。医師は、いくつか質問し、男性会社員が盗聴を恐れていることを聞き出すと、すぐに薬を処方した。診察は10分間ほどで終わった。

 抗精神病薬や抗不安薬などを飲み始めた。

 薬の影響か、体重が半月で7キロ増えた。勤務中も、だるさは一層ひどくなり、仕事に身が入らない。ますます気分が落ち込み、「日々、寄る辺ないさみしさに悩まされた」という。通院から1年たったころには、妻に「死にたい」と漏らすようになった。

 統合失調症は、妄想、幻覚、まとまりのない会話、目的を持たない行動、意欲の欠如などの症状が、1か月以上続く場合などに診断される。思春期から青年期に発症することが多いが、妄想を主体とするタイプは、30歳代以降に発症することもある。

 妄想は、理屈に合わない、奇異なものになるのが特徴で、周囲は何もしていないのに「盗聴器で常に監視されている」「内臓を他人のものとすべて入れ替えられた」などと信じ込む。

 この男性の訴えは、一見、統合失調症の典型的な妄想のように見える。

 「自分では幻覚や妄想がひどいとは思えず、統合失調症と言われてもピンとこなかった。でも、専門家がそう言うのだから、間違いないだろうと思った」と男性は振り返る。

 統合失調症の診断には、症状や、生活歴や仕事内容などについても十分に問診し、発症までの経過などを聞くことが必要になる。

 男性には、「盗聴器」や「スパイ」の恐怖を、実際に身近に感じた経験があった。ところが医師は、それを尋ねなかった。

(2008年10月29日 読売新聞)


(以下、psycho)

 子どもの精神科を志向しているためでしょうか、私は、問診票をみただけで診断をすることはほとんどありません。

 というか、それだけじゃわからないような医者ですから・・・。魔法使いじゃないし。もしも魔法使いだったら、こういうつらさ自体を起こらないようにしているでしょうし。

 閑話休題。

 子どもは成長するので、今の診断が後で変わるというのはよくあることです。ADHD(注意欠陥多動性障害)と診断されていた子どもが、数年後にPDD(広汎性発達障害)という診断になっていたということも、そうそうないことではないようです。もちろん、私だけでもないようです。

 よっぽどつらそうな大人の方の場合は、お話しやすくするために少量の内服薬を試してもらってから、詳しく聞くということを私はします。でも、あんまりしたくないです。どんな状況かわからないのに、お薬での治療を始めてしまうと、後戻りできないような気分に私はなるので、したくないですし、避けてます。

 私の場合は、お話を聞いて、そして、心理検査をします。かかわる時間を増やさせてもらうという側面もありますし、内科ではある程度問診した後で、検査の計画を立てて検査をしますから、同じような感じでやります。外来を受診された方たちも、この方式は意外と受け入れやすいようです。

 診断を間違うということは、病院関係以外の職種の方の場合考えにくいことかもしれませんが、なくはないです。医者も人間ですから。

 私は、大事なことは間違いを気付けるシステムを作ること、と思っています。そのシステムの一つの方法として、心理検査は大事だなと思っています。

 他にもいろんなシステムがあると思うので、もっと知りたいなと思っています。

2008年11月5日水曜日

発達障害もサービスの対象 障害者自立支援法

発達障害もサービスの対象 障害者自立支援法


記事:共同通信社 提供:共同通信社 【2008年11月4日】

 厚生労働省は31日、自閉症や注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などの発達障害者について、障害者自立支援法の対象として明確に位置付ける方針を、社会保障審議会障害者部会に示した。

 発達障害は先天的な脳の機能障害で、現在も障害者自立支援法の対象となっているが、自治体によっては同法に基づくサービスの支給対象として認めていないなど、対応にばらつきがある。

 厚労省は今後法改正や通知などで位置付けを明らかにし、発達障害者がサービスを受けられるよう徹底したい考え。

 また、事故や病気などによる脳の損傷で記憶力や思考力が低下する高次脳機能障害についても、精神障害として同様の対応を行う方針。

▽障害者自立支援法

 障害者自立支援法 地域での自立と就労支援を目的とし、身体、知的、精神障害者への福祉サービスを一元化した。2006年4月施行。以前の「支援費制度」では障害者の所得に応じた負担(応能負担)だったが、財源確保などのため、サービス利用料の原則1割負担(応益負担)に転換した。1カ月の負担上限額が設けられ、通常は3万7200円。低所得者は年収などに応じて2万4600円と1万5000円、生活保護世帯ではゼロとなっている。負担が以前より重くなった人も多いため批判は根強く、独自の軽減策を設けた自治体もある。


(以下、psycho)

 私は、自分の外来では独断かもしれませんが、とっくに自立支援を適用してました。というのも、発達障害の子どもたちは、私のところへくる段階でかなり、精神的な症状を起こしていることが多いからです。

 具体的には、抑うつ症状(うつ病と似た症状です)、幻覚妄想状態(もともと被害的に発達障害の子どもたちはなりやすいのですが、それがかなり高じた状態)、不安状態(不安が強くて、極端な場合は家から出られない、など)という症状が主です。

 彼らが発達障害であるから、精神障害の自立支援法の適用にならないというのは、単なる言葉の問題と私は捉えているのです。だから、外来で受診の際に最初に、親御さんたちに自立支援の適用になることを伝えて、継続的に外来にきてほしいということを伝えます。

 かなりの親御さんは「ああ、そういう制度があるんですか。ならよかった」と言ってくれますが、中には「うちの子供はそんなに重症なんでしょうか?」と不安になる場合もあるようで・・・。

 難しいなと思っていますが、できる範囲で使いたい法律です。

 だから私からすると、「遅いよ!」という気持ちでいます。

2008年11月4日火曜日

糖尿病治療と精神科治療の共通点

なくそう・減らそう糖尿病 第10部・患者の心理的葛藤/3 


記事:毎日新聞社 提供:毎日新聞社 【2008年10月31日】

なくそう・減らそう糖尿病:第10部・患者の心理的葛藤/3

 ◇チーム医療で成果

 糖尿病患者が医師の期待通りの食事制限やインスリン注射を実行してくれない場合がある。改善に向け、糖尿病外来のある長岡中央綜合病院(新潟県長岡市、531床)は、約10年前からチーム治療で成果をあげている。

 チームは八幡和明・副院長を軸に糖尿病の専任看護師16人(外来3人、病棟13人)、薬剤師4人、管理栄養士6人で編成されている。毎週1回、会議を開き、チーム全員が患者の状態を把握。それぞれの立場で、だれもが助言できるようになった。

 退院した患者が数カ月後に外来に訪れた場合、入院時の担当だった病棟の看護師が外来に現れ、「体調はどう?」と会話を始める。「日ごろから交流があると、性格的に打ち解けにくい患者も、チームのだれかに心を開く」とベテラン看護師の丸山順子さんは話す。

 さらに、メンバーは週に2回、患者やその家族とランチをともにする。患者と自由に会話をする中で、普段は気づかない患者の食事の仕方、考え方などが分かってくる。「ざっくばらんに話をしていると、患者さんも本音を言う。アドバイスしやすくなる」(丸山さん)という。

 糖尿病の治療では、患者が自ら自己管理の重要性に気づくことが大切だ。八幡さんは「患者と同じ目線で治療に当たらないと、なぜ患者が血糖値の管理につまずくのか気づきにくい」と語り、患者との接点が多いチーム医療の効果を強調する。

 八幡チームの一員だった瀧澤香織さん(36)は2年前、魚沼病院(新潟県小千谷市)に移った。糖尿病の専門医はいなかったため、自己管理がうまくできない患者も外来に来ていた。長岡中央綜合病院での経験を生かし、医師や栄養士、薬剤師、リハビリの担当者でチームをつくった。それ以来、スタッフが患者にきめ細かく指導したり話しかけるようになった。

 瀧澤さんは「患者へのアドバイスが具体的になり、双方のコミュニケーションも増えた」と語る。

 チーム医療は人材育成でもある。【小島正美



(以下、psycho)

 以前にとある製薬会社の主催する糖尿病に関するセミナーに出席したことがあります。そのときは、ネットでだったのですが(形式がネットを介しての研修でした)、天理よろづ相談書病院で糖尿病治療にかかわっておられる石井先生をはじめとした、スタッフの方たちからお話を聞けました。

 精神科治療と似ているなと思えたのです。とくに、
(1)長期にわたってフォローするので、患者さんもスタッフも無理をしないというスタンス
(2)「どういう気持であったのか」ということをメインに据えて話をするという姿勢
(3)問題点を指摘するよりも、問題点をもっている人にどんなふうに肯定的にかかわれるかという点
です。

 ただ、こういう方法はまだまだ他のところに伝わるまでに至っていないようで、「他のところ」で精神科医をしている私でさえ、その場の流れにのまれてしまって、症例検討の際に患者さんの問題点を指摘する、ということをしてしまっていました。

 どうしたら、こういうことをうまい具合につたえていけるのか・・・とその時からずっと考えています。

 そういう意味で冒頭の記事は、うまく伝わっている例だと思えるのです。どうやって、奈良県の天理市から新潟県の長岡市にうまく伝わったのか・・・、「伝染」しえたのか・・・と思います。

 あ、前文の「伝染」は、今マルコム・グラッドウェル著「急に売れ始めるにはワケがある」(ソフトバンク文庫)を読んでいるせいでしょう。

2008年11月3日月曜日

子宮頚がんワクチンの開発。

2008/10/31(金)

子宮頸癌(がん)ワクチンの安全性を確認

承認から2年になる子宮頸癌(がん)を予防するためのワクチン(商品名:Gardasilガーダシル、※日本では未承認)が安全であることが、米国当局により報告された。

米国疾病管理予防センター(CDC)は、11-12歳からこのワクチン接種を受けるよう勧めている。Bloomberg(ブルームバーグ)ニュースによると、CDC予防接種安全対策室は、過去2年間に少女および若年女性を対象に実施された37万回のワクチン接種について調べた結果、血栓をはじめとする重篤な症状が引き起こされるとのエビデンス(根拠)は認められなかったとしている。一方、予防接種が不特定多数との性行為を助長すると懸念するグループなど、このワクチンを批判する団体は、Gardasilの安全性に疑問を呈し、性感染症の予防になるというような誤った認識を女性に与える可能性があると主張している。

Gardasilは、性行為により伝播し、子宮頸癌の原因となる4種類のヒトパピローマウイルス(HPV)を予防するワクチンである。今回の研究は、3回のワクチン接種のうち少なくとも1回を受けた少女および若年女性19万人の医療データを、別のワクチンを受けた女性またはワクチンを受けていない女性のデータと比較したもの。米フィラデルフィア小児病院のPaul Offit博士は今回の結果について、「心強い結果。このワクチンが安全ではないとの一般的認識がある。否定的な情報に対抗する重要な知見である」と述べている。

CDCの報告によると、11~17歳の少女のうち推定25%がこのワクチンを接種しているとされ、新しいワクチンの1年目の接種率としては極めてよい結果であると、CDCのLance Rodewald博士は述べている。この調査は少女のみを対象としたものであるため、実際はもっと多くの若年女性がワクチンを受けていると思われる。Rodewald氏によると、Gardasilは極めて忍容性が高く(well-tolerated)、若年齢で接種すれば少なくとも6年は予防効果が持続するという。また、このワクチンによって米国で子宮頸癌による死亡が年間4,000人減少すると期待されている。

副作用の1つに失神(fainting)があるとされ、米食品医薬品局(FDA)は先ごろ製造元のメルク社に対し、接種後15分間は失神がないか医師が患者を監視するよう勧める警告を添付文書に追加するよう求めた。7月には、接種部位の痛みや吐き気など、Gardasilによる8,000例の副作用(副反応)の報告がCDCに提出されたことが報道された。死亡例は15例の報告があり10例が確認されているが、いずれもワクチンによるものではないとCNNは報じている。CDCの研究結果の発表を受けて、メルク社はワクチンの必要性を強調する声明を発表している。

[2008年10月22日/HealthDayNews]
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(以下、psycho)


 もしも私に娘がいて、このワクチンをうけると言い始めたら、複雑な気持ちになるだろうなあと思います。。

 接種しなければ心配な反面、接種しなくてはならない状況なんだなあと思うとそれもまた心配。おかしな男にだまされていやしないかと、気になりすぎてしまうことでしょう。

 性的に大人になったと喜んでばかりいられない気持ちになってしまうでしょうし、さみしい気持ちとともに、その娘の将来を憂う気持ちが出てきそうです。

 幸いかどうかわかりませんが、私には男の子しかいないので、子宮頚がんの心配はしなくてはいいのですが、それはそれで心配。

 最近は男の子でも、性的虐待の被害者になりうるそうですし、いじめなんかも男の子同士のほうが陰湿なようですし。


 でも、子どもをもつって、心配することが多いことがいいのかもしれませんが・・・。




 


2008年11月2日日曜日

研修医制度を振り返る

医療維新    2008年10月31日トップに戻る    レポート    初期臨床研修制度◆vol.2
医師の質、「向上していない」が7割
スーパーローテーション方式へは一定の評価 
村山みのり(m3.com編集部)
   


Q.2 2004年に必修化された臨床研修制度により、以前の研修制度時と比べて初期研修終了後の医師の質は向上したと思いますか

 「そう思う」「ややそう思う」を暖色、「あまりそう思わない」「そう思わない」を寒色で示した。「初期研修終了後の医師の質が向上した」、または「やや向上した」とする回答は、大学病院勤務者で約2割、それ以外の医療機関・施設勤務者で約3割にとどまっており、大半の回答者が「そう思わない」「あまりそう思わない」としている。大学病院勤務者では、「そう思う」と回答したのはわずか3%だった。


Q.3 現行制度ではスーパーローテーション方式が必須となっていますが、幅広い知識が身に付く一方で、後期研修以降、専門とする予定のない診療科も必ず研修をしなければならないことについて問題視する声も多く聞かれます。この方式について、どうすべきであると考えますか  

「ストレート方式との選択性とすべき」との回答が約半数を占めるものの、スーパーローテーション方式を続行すべきであるとする回答もほぼ半数となっており、この仕組みが課題を含みつつも一定の評価を得ていることがうかがえる。
 「続けるべき」とする回答者が大学病院の方が若干少なくなっており、Q.2の回答結果の反映とも考えることができる。
 自由意見としては、「スーパーローテーション期間を延長すべき」「短縮すべき」の両方の声があったほか、「内科系ローテーション、外科系ローテーション、ジェネラリストローテーションなどパターンの多様化を」などの意見も上がった。


(以下、psycho)

 医師の質が向上していないのに、現行の研修医制度を続ける必要があるのかないのか、という問題を提起したいのかもしれませんが、いくつか検討すべき点があると思います。

 まず、研修医制度が始まってからだいたい4年くらいしか続いていないのです。つまり、医師免許を取得して4年目くらいの医師が最初の研修医制度卒業生になるわけです。

 自分がその年次の医者だったころを考えると、まだまだ心もとないとしか言いようがない時期でしたから、まだまだ医師の質が云々といえるのかどうか、疑問な時期ではないでしょうか。

 そして彼らを評価するのは、年齢のいった指導医なわけです。

 つまり年齢によるバイアスがかかっているのではないか?ということでもあり、評価する人の違いもあるのではないか?ということを考えてほしいということです。

 次に、ストレート方式と現行の研修医制度の違いもまた比べるのが難しいのではないかと思います。私は、変則的な研修制度を受けた人間だと思います。最初は、全然精神科を考えておらず、小児科を偶然研修の第二選択として選び、第一選択、いわゆるストレート方式の頃の「医局」に入った場所は全然別の場所でした。

 自分がいい医者かどうかは謎ですが、精神科医としてはある程度は治療できる部分があるようです。ただし、私は採血ですらできない人ですし、まして中心血管栄養IVHもできません。それでいいかどうかということでしょう。

 私個人としては、不自由は感じていません。内科と連携させてもらっていますし、採血検査も看護師さんがメインでやってもらえるからです。

 私は何をしているのか。

 つまり私は、外来に受診した人たちに対して「安心感」を渡しているだけです。そして、薬の依存にならないように、ゆっくりと病院以外の世界が生活の比率に高くなるようにしているということです。私は、それでいいと思っています。

 逆に、内科の医師で「安心感」を渡せたらそれはそれでいいと思っていますが、なかなかそういうことにはいかないようです。その理由はよくわかりません。

 研修医制度については、まだまだよく論議していくことが大事と思いますから、こういう集計や提言は大事だと思いますが、単純比較はできないと思います。

2008年11月1日土曜日

書評 藤家寛子×ニキ・リンコ「自閉っ子、こういう風にできてます!」





書評 藤家寛子×ニキ・リンコ「自閉っ子、こういう風にできてます!」(花風社、1600円;税別)


  今では自閉っ子たちが活躍している場が全くなくはないので、そのために彼らがどのような考えをもっているかがわかることが増えた、そう思います。

 この本は、そういう本の 一つだと思うのですが、花風社の浅見さんと藤家寛子さんとニキ・リンコさんとの対談は、対談、という堅苦しさはなくて、読んでとても楽しめます。
 本文で浅見さんも言って おられるように、自閉っ子たちの身体的な障害(おもに感覚障害や認知の障害)は、彼らとの付き合いも長い私でさえ、想像したことがないくらいすごかったのです。
  冒頭からいきなり「『雨ニモ負ケズ』は、やっぱり雨が痛いからできたんだと思った」という・・・。驚きというか、いきなりのフックでした。

 そして、もっと 驚いたのが、ニキ・リンコさんが反抗期のことを読んで、親にその通りに反抗してみた、というくだりです。
 私も同じだったから。
 自閉っ子はスペクトラム障害と いって、きっちりと自閉っ子とそうでない子が分けられるわけでもないから、私もそうだったんだ!と納得してしまいました。そういう発見が楽しい本です。