2008年7月31日木曜日

5歳児健診

 いってきました、5歳児健診。
といっても、私が健診「する」側です。

 5歳児健診は、鳥取県で開始されています。私の住んでいる東北のとある県でも
今年から開始したのです。

 身体疾患、発達障害などをスクリーニングする健診です。

 久しぶりの健診で、しかも5歳は私にとっても初めてだったので、ドキドキしました。

 でも、実際にやってみると、以前に学校健診をしたときの感覚が思い出されました。
何よりも、子どもたちがかわいい!!

 そういうわけで楽しみです。

 それに、保健師さんたちとお話できるのがとても楽しみです。いつもひとりで外来をしているので、誰かと話すのは、とてもうれしいのです。

 確かに、こんな風な単純な、簡単な理由でいいのかどうか分からないのですが、とりあえず、5歳児健診、やるほうが楽しまないと、と思います。
 

2008年7月29日火曜日

「文字は学問するための道具」

トラックバックというのを初めてしました。以下が、そのアドレスです。
http://blogs.yahoo.co.jp/hanaotoiida/
(7月23日版)


このブログは、私の知人のブログなのです。
私にとって、このタイトルが、ちょっと目を覚まさせられた、というべきでしょうか。

私だけがそうなのかと思うのですが、どうも私は、目的と手段を履き違えます。

英語、私も勉強しているのですが、どうして英語を勉強するのでしょうか?最初のうち、私はその質問に答えられませんでした。ただ、やりたくて、という感じだったのです。

もちろんそれでもいいのでしょうが、私は、もともとそういえば何で英語をしたいんだっけ?と、戻ってみました。

私はもともと、英語の文献をできれば二日で読みたかったのです。仕事上、英語文献が読めないと話にならないし、それに1ヶ月もかけているのは最初の要約(=abstract)の内容を忘れてしまうので意味がないと思ったからです。

余談ですが、英語のペーパーバックなんて、1年かけて読み終えないものもあります。

それで、一発奮起して、毎日英語を読みました。そして、書きました。
ちなみにまたまた余談ですが、意外とニンテンドーDSが役に立ちました。ソフトの「英語漬け」がいいですよ。

そんな、こんなで半年でしょうか。

今は、その過渡期でしょう。
英語文献を読了するのに、一ヶ月はかかりませんが、それでも4日から1週間かかります。

今後はもっと速くなるでしょう。

ここで、私ははた、と気づきました。英語の文献読んで、それでなに?と。

それが、外来に、目の前にいる人に役に立たないと意味がないです。

それを思い出して、また英語をしています。

でも、この長い例のように、手段と目的がごっちゃになることって、多くないですか?

文字は道具だから、そこに書かれていることがわかっても、それを使えないと意味がない、それが私はなかなか実感していないということでしょう・・・。

2008年7月27日日曜日

「ついていったらだまされる」




 多田文明著「ついていったらだまされる」(理論社、写真)を読みました。

 私は、理論社のよりみちパン!セというシリーズが大好きなんです。中学生以上、とあるので、読みやすいし。

 我が家で月に一回主催する読書会でも、よくこのシリーズでやっています。

 で、この本ですが。
 初めての物事に出会った時の私の思考というのが「へえ」なんですね。それが、存分に出た本です。面白い、というか、それって、ありなんだ・・・という感覚でしょうか。

 例えば、著者のお仕事。「キャッチセールス評論家」ですよ!?それって、命がけだろうなあと思って、驚くやら、それが仕事になるんだ・・・と感心するやら…。

 この本は「どうしたら、あなたを狙ってくる人たちに対して騙されないようにするか」という視点で書かれています。その結論は、「疑問に対して、思考を停止しないこと」です。

 ≪疑問を持ち続けられないのはなぜ?
 「どうして?」という疑問を持ちながらものごとを深く考えない人は本当に多い。詐欺の被害にあう人があとをたたないことからも、それがわかると思う。多くの人はどうして、疑問をもち続けることができないのだろうか?結論から言ってしまえば、それは、ものごとを深く考えないことのほうが、楽だからだよ。≫
(本文202ページより)

 どきり、とします。

 どうして、この人は見ず知らずの自分に優しいのか、など考えるよりも、その優しさに浸かっているほうが確かに楽そうです。

 それを著者は言いたいのです。そして、それがあることで、身を守ることができる、と断じています。

 私もその通りだと思います。
 自分を振り返っても、そういう傾向があるわけですし。

 ただし、これをどうやって子供に伝えるか、難しいと思います。あまり「なぜ?」ばっかり言われても、日常生活で、私が我慢できないし。

 バランスを取って生きていくことの難しさというか・・・。

 お勧めの本です。
 

2008年7月25日金曜日

手助けされることが、いや。

 教育の現在、私の外来での一番の困り事でもありますが、
「自分でできることは、自分でしょう」
という方針があります。

 学校では、自立を教えるおつもりなのでしょう。

 けれども、これで私は困っているのです。というのも、私の外来にやってきても、親たちに連れられてきて(=親もその子供が困っているとわかっている)も、私から見てもその子が困っているとすぐわかっても、本人は、その困っているという状態を認めつつ、サポートを拒否するのです。

 もちろん、私の話の持っていき方がよくない、私と相性が良くない、など、私の側の要因はいくらでもあると思います。

 でも、それでも大部分の子供たちは大なり小なり「手助けされることは、いけないこと」と思っているようなのです。

 不登校であれ、精神疾患であれ、それは同じです。

 困っているのだから、何らかのサポートを求めればいいのに。

 顕著に表れるのは、発達障害の子供たちに特別支援を要請する時です。発達障害と診断し、診断書類を作成して教育委員会に提出し(学校や親御さんにやってもらいますが)、特別支援の学校人員配置を審査してもらい、その子供が通常学級にいて、その子のためにサポートの先生がやってくる、というわけです。

 わからないことはその人に聞けるし、何かと便利だろうと私は思うのですが、子どもたちはそうは思わないようです。

 「サポートの先生なんて、いや。助けてもらうなんて、恥ずかしい」。

 そういう思いがあるようです。

 できないことを認めたがらないということだと思うのですが、それは、学校や周囲の大人が「できないこと」=だめなことという考えがあり、「できないこと」を認めるのは恥ずかしいということになるようです。

 そうなると、特別支援のサポートの先生がつくのも、いや、恥ずかしい、そういうことになるようです。

 学校で、周囲で、できないことは恥ずかしい、手助けされるのは恥ずかしい、そういう考えを培っているのでしょう。

 少なくとも、できないときもあって、人に助けを求めるのは手段の一つである、というくらいになってほしいのですが・・・。

学習支援;Do-IT Japan

障害があっても東大に行こう--DO-IT JapanでITの支援を受ける学生たち

藤本京子(編集部)
2008/07/24 18:01

 マイクロソフトは7月24日、障害のある高校生および高校卒業生の進学、就労をテクノロジーで支援するプログラム「DO-IT Japan」の実施内容を報道機関に向けて公開した。

 DO-IT Japanは2007年より開始されたプログラムで、任意団体のDO-IT Japanおよび東京大学先端科学技術研究センターが主催、マイクロソフトが共催している。全国の応募者から選ばれた参加者は、5日間の体験プログラムを 通じてテクノロジーなどの知識を身につける。参加者にはPCと、障害に応じた支援機器を提供し、体験プログラム後もオンラインメンタリングによって支援を 受ける。

中邑氏 東京大学 先端科学技術研究センター 教授の中邑賢龍氏

 米国では、ワシントン大学がDO-ITプログラムを1993年より毎年実施しており、多くの卒業生が大学に進学している。東京大学 先端科学技術研究センター 教授の中邑賢龍氏は、「米国では障害のある大学生が約200万人在籍し、全学生の11%にも上っているが、日本では大学に在籍する障害学生は約5000人 で、全体の0.17%に過ぎない」と指摘する。

 これは、「海外では障害を持つ学生に対し、合理的な配慮をしているからだ」と中邑氏。日本では、障害があっても努力で何とかすべきだという風潮が あるが、中邑氏は「努力だけではどうしようもならないことがある。海外では、文字が書けないのであればワープロを使ったり、問題を解くのに時間がかかるの であれば試験時間を延長したりといったことを認めている。こうした配慮で、多くの学生が学習を続けられるのだ」と説明している。

 2007年のDO-IT Japanは、12名の高校生・高卒生が参加し、うち4名が大学を受験、2名が希望する大学への進学を果たした。今回も、手足などの体に障害がある学生は もちろん、発達障害や記憶障害など認知に障害のある学生も含め12名がプログラムに参加している。報道機関に公開されたプログラムでは、認知に障害のある 学生に対し、Microsoft Office Visioを使って思考を整理する講座が開かれており、体に障害のある学生に対しては障害の程度に合ったPCの使い方が指導されていた。

小倉さん Visioに真剣に取り組む小倉さん

 千葉県から参加した小倉信治さんは、クラブ活動中に野球のボールが頭にあたって以来、高次脳機能障害を抱え記憶力が低下したという。今回の講習 で、Visioで図を描きつつ思考を整理する方法を学び、「関連づけて覚えやすいのでこれからも使ってみたい」と意欲を見せる。小倉さんは、2007年に も同プログラムに参加し、今回で2度目の参加となるが、再度参加した理由を「ここで学んだことが役に立ったのはもちろん、同じように障害を持った人と知り 合い、大学受験についての情報交換もできた」と述べている。

 体に障害がある学生に対しては、Windowsにすでに組み込まれている機能で、障害がある人にとって使いやすい機能を中心に紹介されていた。

木下さん アゴにつけたシールで器用にマウスを動かす木下さん

 静岡県出身の木下昌さんは、頚随損傷により手足と呼吸に障害がある。手が動かせないため、パソコンのマウスは、アゴにつけた赤外線シールにより、 赤外線認識機能を使って動かしている。キーボード入力はパソコンの画面上に表示された文字を赤外線でクリックしていく。画面上のキーボードは特別なもので はなく、Windowsにすでに組み込まれているものだという。

 ほかにも、シフトキーを固定させつつ他のキーも同時に押すことを片手だけでできる機能など、各個人に合った方法が紹介されていた。

 東京大学の中邑氏は、「読み書きができなければワープロを使い、計算ができなければ電卓を使っていいはずだ。日本の教育現場ではそれがまだ認められていないが、将来的にはITの支援によって障害のある学生でも東京大学に進学できるようにしたい」と述べた。

(以下、psycho)

 ちょっとびっくりしてしまった部分がありました。東大にそんなにこだわるんだ・・・と思えたからです。

 東大、じゃなくて、行きたい大学、受けたい大学の講義、という、その代表例に「東大」というイメージをとったのだろうと、私は解釈しましたが、誤解を生むかもしれないと思えます。

 さて、記事ですが、今さらながら・・・という感もあります。遅いんだよなあという感じ、と言いますか・・・。

 障害があっても、素晴らしい能力の持ち主と私は外来でよく会います。ファンタジー小説が大好きでほぼ暗記している、知的能力も人並み以上、などです。それをなかなか生かすことができないのです。外来に来てくれている人たちが、生かせないのではなくて、周囲が生かせないのです。

 生かす方法を知らないのです。

 たしかに、この記事に登場しませんでしたが、たとえば発達障害の人たちは、「パニック」になることがあります。精神科では、厳密な意味ではパニックと言わず、混乱するといいますが、ほとんどの人がパニックになるというので、ここでもそう書きます。
 発達障害の人たちが、彼らの能力がオーバーヒートすると、暴れてしまったり、めちゃくちゃな運動をしたりというようなことを「パニック」と呼んでいるようです。
 発達障害の子供たちは、実はかなり知的能力が高いのです。でも、聴覚情報を取り入れられなかったり、一方的に叱られるとパニックになるという、たったそれだけで、学校で「困った存在」になりがちです。

 極端な場合は、厄介者扱いです。

 そして、体系だった教育が受けられないわけです。

 そうなると、日本では大学に行きづらくなります。せっかくの能力が生かされないのです。

 発達障害の子供たちは、他者との交流が苦手な場合が多く、それをある程度他の人にやってもらえたりすると、自分の興味のある分野で開花することが多いのです。

 この記事のように、そういう人たちへのサポート、それが今後さらに洗練されていく必要があると思います。

2008年7月24日木曜日

認知症の人たちと抗精神病薬の効果

≪認知症の高齢者への短期間の抗精神病薬治療は重篤な有害事象の原因になる≫

提供:Medscape

 高齢認知症患者では、抗精神病薬治療開始から30日以内の入院または死亡のリスクが大きいことが、大規模試験で示された。

【6月3日】地域生活または養護施設で暮らしていて、非定型または従来型の抗精神病薬による治療を開始した高齢認知症患者は、そうした薬物を使用していない同様の患者に比べて、30日以内に入院または死亡する傾向がおよそ2倍から4倍大きい。


この知見は、『Archives of Internal Medicine』5月26日号に発表された大規模地域住民レトロスペクティブ(後ろ向き)コホート研究によるものだ。


こ の研究は、これらの薬物の現実世界での使われ方に関する市販後調査であり、重篤な有害事象を個別ではなく複合転帰として調査した点が重要であると、筆頭著 者のPaula A. Rochon, MD(臨床評価科学研究所、カナダ・オンタリオ州トロント)がMedscape Psychiatryに語った。


「我々が伝えたいのは、こうした重篤な副作用が治療開始早期から起こりうるということだ。ベネフィットがリスクを上回る状況でのこの種の治療の実施が制限されるのはほんとうに大変なことだ。」


この患者群には抗精神病薬は安全か?


著者らの記述によれば、非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピン、リスペリドンなど)は、10年以

上前から市販されており、認知症の行動症状や精神症状の治療に従来型の抗精神病薬(ハロペリドール、ロクサピンなど)の代わりに広く用いられている。


著者らによれば、抗精神病薬は臨床の現場では不穏症状の治療に短期間用いられることがしばしばある。ある研究の報告では、養護施設に新規に入所した入所者のうち、100日以内に抗精神病薬投与を受けている者が17%いる。


「こうした薬物の短期使用が高頻度に行われているので、その安全性の評価が重要である」と著者らは記している。


研究グループは、1997年から2004年までの期間で、認知症と診断され、抗精神病薬治療を受けた66歳以上のオンタリオ州住民のデータを分析した。重篤な有害事象については、被験者の医療記録で評価した。


複合転帰には、抗精神病薬治療開始から30日以内に入院または死亡の原因となった重篤有害事象を含めた。入院は、既知の重篤事象(錐体外路症状、昏倒や股関節骨折、脳血管事象??これまでの研究で明らかにされてきたもの)またはその他の事象として分類した。


研究グループは被験者群を、地域居住コホートと養護施設コホートの2つに分けた。なぜなら、養護施設居住者は抗精神病薬が処方される率が高く、一般的に、有害事象を起こしやすく、障害を受けやすいからだ。


この2種類の状況のそれぞれにおいて、抗精神病薬の曝露状況が、なし、非定型抗精神病薬、従来型抗精神病薬のいずれかである以外は条件が同じでサイズも同じ3群を特定した。


この研究の対象になったのは、地域居住の認知症高齢患者20,682例(抗精神病薬曝露状況の3分類のそれぞれに6894例)と養護施設居住の認知症高齢患者20,559例(3分類のそれぞれに6853例)である。


もっとも多く処方されている非定型抗精神病薬はリスペリドン、オランザピン、クエチアピンであり、従来型抗精神病薬はハロペリドール、ロクサピン、塩酸チオリダジンであった。


重篤な有害事象は多く見られ、過小評価の可能性がある


抗精神病薬治療開始後の早期から重篤な有害事象が高頻度に起こっていた。そうした事象は、非定型抗精神病薬よりも従来型抗精神病薬を使用している被験者で、また、養護施設居住者よりも地域居住者で多く見られた。


表.高齢認知症患者への抗精神病薬治療開始から30日以内の重篤有害事象のリスク


抗精神病薬治療

地域居住被験者群の調整後OR(95%CI)*

養護施設居住被験者群の調整後OR(95%CI)*

なし

1.0

1.0

非定型

3.19 (2.77 - 3.68)

1.92 (1.68 - 2.21)

従来型

3.81 (3.31 - 4.39)

2.38 (2.08 - 2.72)

* 標準差が0.10を超える共変動のすべてについて調整。そうした共変動としては特定種類の薬物治療の使用、最近の入院、などがある。


この研究では、重篤有害事象の真の発生率を過小評価している可能性があると、著者らが述べている。第1に、この研究では、薬物使用の中止に至った事象や、入院に至らなかった事象が除外されており、第2に、追跡期間が短いからだ。


そのため「重篤有害事象を調べた今回の結果は、『氷山の一角』を見つけただけのものである可能性が高い」と著者らは記している。

「抗精神病薬は、たとえ短期間であっても慎重さをもって処方しなければならない。」


こ の研究は、カナダ保健研究所(CIHR)の慢性疾患新興チーム(Chronic Disease New Emerging Team)プログラム、CIHRの学際研究振興(Interdisciplinary Capacity Enhancement)助成金、CIHRの若手研究者賞(New Investigator award)の支援を受けている。慢性疾患新興チームは、カナダ糖尿病協会、カナダ腎臓財団、カナダ心臓脳卒中財団、CIHR栄養代謝糖尿病研究所・循環 器呼吸器医学研究所が共同で支援している。著者のうち1名は、トロント大学の健康管理戦略委員会の委員長を務めている。著者のうち2名が資金援助を受けて いる。その他の著者の開示情報には、関連する金銭的利害関係はない。


Arch Intern Med. 2008;168:1090-1096.

臨床的背景


非 定型抗精神病薬(オランザピン、フマル酸クエチアピン、リスペリドン)は、高齢認知症者の行動症状や精神症状の治療薬として、昔からの従来型抗精神病薬に 大きく取って代わってきている。錐体外路症状、昏倒、股関節骨折、脳卒中、死亡といった個々の有害事象と抗精神病薬使用との関係を調べたコホート研究はあ るが、そうした状態をはじめとする重篤な有害事象をすべてまとめた発現リスクについては調べられていなかった。


臨床の現場では不穏症状や譫妄の治療に抗精神病薬を短期間使用することが多いが、そうした実践を支持するエビデンスはランダム化対照試験で得られていな い。障害を受けやすい患者群にこうした薬物が使用されることが多いので、安全性を明確にすることが重要である。


Medscape Medical News 2008. (C) 2008 Medscape


(以下、psycho)

 私はこどもの精神科が専門というか、精神科で子供を主に診ていますが、認知症の方も来てくれます。そのときに、暴れていたり、ひどく被害的になっている場合、向精神薬(もちろん、抗精神病薬を含めて)を使います。

 ずっとそれでやってきて、うまくいくこともありましたし、まったく効果がないこともありました。

 この記事のような研究結果が出た場合、うまくいっている人も中止しなくてはならないかもしれないわけです。医者としては、うまくいっているのに、困ったと思いますが、私だけが悩む問題ではないのです。

 他の人がどうしているか、わかりませんが、私は自分の経験上うまくいった話と効果がなかった話、今回のこの研究結果、そして、今後どうしたらいいか私は迷っている、と、その方本人や家族の方に相談します。

 それでどちらかを選ぶのか、それは、人それぞれの考え方ですから、私はどちらでもいいと思います。

 他の薬を使うこともありますし、使わなくても、とりあえず何とかなることもあります。かなり注意していつも誰かがつきっきりでないといけない場合もあります。誰かがつきっきりになれることもありますし、なれないこともあるでしょう。

 この記事でいう「有害事象」って、副作用が出たり、極端な場合死にいたることだろうと私は思います。あくまでもわたたしの考えですが・・・。

 本人や家族に相談すると、必ずうまくいくわけではないのですが、何となく納得できて、ホッとできる場合が多いです。

 その方本人や家族の方の人柄に感謝してしまいます。

 こういう研究結果が出たので、今後は認知症の方の被害的になるとか、暴れるとかいった状況にどうかかわればいいのか、その研究もしてほしいものだと思いますが・・・。

2008年7月21日月曜日

心疾患とネガティブな感情

2008/07/18(金)

No.J000435

ネガティブ感情は心疾患イベントに関連:Whitehall IIスタディ
KEYWORD心疾患イベント|感情|Whitehall II|冠動脈性心疾患|循環器

心 疾患イベントのリスク増加に心理的因子(不安、敵意/怒り、うつ)が関わっていることを示す研究がいくつかあるが、ポジティブな感情、ネガティブな感情そ れぞれを独立因子とし、二次的な冠動脈性心疾患イベントとの関連(影響およびリスク)を検討する研究が報告された。イギリスでのWhitehall IIスタディからの報告。同スタディは1985年にセットされ追跡調査されている、健康と疾患の社会経済的傾向を探るための経時的研究である。BMJ誌 2008年6月30日号掲載より。

1万308人を12年以上追跡調査

追跡期間12年以上の前向きコホート研究としてデザインされた試験には、ロンドンに本部事務所を置く20の行政機関に属する1万308人(1985年登録時35~55歳)が参加した。

主要転帰項目は、致死性冠動脈性心疾患、非致死性心筋梗塞、狭心症(n=619、追跡期間12.5年)。

年 齢、性、民族性、社会経済的位置づけで調整したコックス回帰分析の結果、ポジティブ感情と、バランスがとれた感情(バランス・スコアに着目した指標で評価 した感情)は、冠動脈性心疾患との関連は見出せなかった。ハザード比はそれぞれ1.01(95%信頼区間:0.82~1.24)、 0.89(0.73~1.09)。

ポジティブ感情、バランスのとれた感情との関連は見られなかったが

さらに行動のリスク因子(喫煙、飲酒、1日の果物と野菜摂取量、運動、BMI)、生物学的リスク因子(高血圧、血中コレステロール、糖尿病)、仕事による精神的ストレスの因子で補正をしても、結果は変わらなかった。

しかし、ネガティブ感情を有する区分に分類された参加者には、冠動脈性心疾患イベント増が見られた(ハザード比:1.32、95%信頼区間:1.09~1.60)。この相関は、複数の交絡因子の調整後も変わらなかった。

こ の結果を踏まえ、「ポジティブ感情と、バランスのとれた感情は、男女ともスタディ加入時に冠動脈性心疾患と診断されなかった場合、将来的な発症を予測する 因子とはならないようだ。ネガティブ感情には弱い相関が見られる。さらなるスタディで確認する必要があるだろう」と結論している。

文献
Nabi H et al. Positive and negative affect and risk of coronary heart disease: Whitehall II prospective cohort study. BMJ. 2008 Jun 30;337:a118. doi: 10.1136/bmj.a118.


(以下、psycho)

 以前から、外来に必ずと言っていいほど、心臓の疾患を抱えた人がひとりはおられるようになりました。今現在は、おられないのですが・・・。

 大学院にいる頃も、循環器内科と精神科で「心疾患の人たちは、精神疾患の中でもうつ病や、不安障害が多いのではないか?」ということで、協力し合うという体制でした。ちなみに北海道の大学ですが。

 心疾患を抱えた人たちの中で、心疾患自体は改善しているけれども、依然としてその症状が本人にとっては継続していて、それゆえに、その症状にこだわってしまい、心疾患の主治医との関係が悪化してしまう人もいました。

 私にしてみれば、どんな疾患でもことに慢性疾患であれば特に、精神科のかかわりが必要だと思うのですが、そういう思いはその主治医にはなかったのでしょう。

 そういう体制を、地方の一般病院でできたらいいなと思っていますが、どうなんでしょう?

 

2008年7月20日日曜日

病院で暴力をふるう人たち

病院で、暴言・暴力をふるう人たちがいるのです。

愛知県・小牧市民病院 職員の約半数が患者の院内暴言・暴力を経験_暴言・暴力から守る対応策が急務

記事:Japan Medicine
提供:じほう

【2008年7月18日】

 病院現場では、患者・家族からの暴言・暴力から、病院職員を守る具体的対応策の構築が急務になっている。愛知県の小牧市民病院(544床、末永裕之院 長)の48.6%の職員が、患者・家族などから暴言・脅迫などを受けていることが明らかになった。今回、小牧市民病院では、7月に開かれた全国自治体病院 協議会近畿・東海地方会議に報告するため、病院職員を対象に調査を行ったものだ。

複数回体験の職員が多い傾向に

 医療機関内の暴言・暴力などは、近年、医療者から患者への場合、反対に患者・家族から医療者への場合と両方が問題視されている。
  小牧市民病院の調査は、職員825人を対象に実施した結果、回答は664人(回答率80.5%)だった。そこで、患者・家族から暴言・脅迫などを受けたことがあると回答したのは、323人、48.61%で過半数に迫る勢いにあることが分かった。
  暴言などを受けたと回答した323人について、職種別に見ると看護師が220人で圧倒的に多く、次いで、医師50人、技師34人などと続いた。受けた時期 については、171人は1年以内の経験とし、その回数は2回以上が241人を占め、常態化していることがうかがえた。暴言などを受けた場所については、病 室が169人で最も多かった。
  さらに患者らの暴言などの要因については、患者の思い違い、理解不足を挙げたのが多かったほか、診療の待ち時間へのクレームとして暴言などを言う患者もいるとしている。
  実際に苦情の種類は、やはり暴言が287人で最も多かったが、暴力を受けた職員も68人存在していた。
  “危険”との危機感を抱いたことがあるとしたのは150人に達している。そして解決策としては、口頭による謝罪が最も多く、警察への要請は14件にとどまった。

マルボウ経験の警察OBの採用は効果的

 この結果を受け同院は、「医療現場で職員は、不本意ながら謝罪をすることで切り抜けている。ただ、警察OBを配置することも有効な手段だが、従来の巡査クラスではなくマルボウ経験の警察OBが効果的ではないか」と話している。
  また、全国自治体病院協議会近畿・東海地方会議で行われた議論でも、例えば、岐阜県の病院から、暴力対策について弁護士と相談して、トラブルを起こした患 者に対して診療拒否ができるよう念書を書いてもらっている事例や、警察OBを雇用しトラブル処理に対応してもらうと効果的などの意見が出された。ただ、警 察OBは、やはりマルボウ対策に精通した人材が望ましいとの意見が複数出された。
  ただ、診療応需義務について厚生労働省は、現時点で診療応需義務を見直す方針にはないとしている。


Copyright (C) 2008 株式会社じほう


(以下、psycho)

 私も、外来にきたひとから暴力を受けたことがありますし、入院している人を担当していたころには、担当の人から殴られたこともあります。

 暴言もあります。

 何とも感じないようにしましたが、辛かったです。感じないようにするしかない、とその当時は思っていました。でも、それは、違うだろう、いつか解決策が見つかるといいのに、そう思っていました。

 この記事を読んで思ったのは、その当時のことです。思い出して、自分だけじゃなかったんだなあと、思う気持ちと、さみしさがありました。

 病院という場所で、暴力を選ぶのは、よほどのことだろうと思うのですが、暴言・暴力にあう側もつらい・・・。

 さりとて、この記事のように、警察に対応してもらう、しかも力の強い人に対応してもらおうというのも、さみしい気がします。

 簡単に結論が出ないのですが、こうして、記事になるのは、みんなで考えるきっかけになるのでいいと思えます。

 自分勝手ですが、私はもう暴言・暴力にはあいたくありません。

2008年7月19日土曜日

ヘロイン依存症

そんなものなの?という感じの記事です。

2008/07/10(木)

No.J000426

ヘロイン依存症の治療にブプレノルフィン維持療法が有効
KEYWORDヘロイン依存症|ブプレノルフィン

  ヘロイン依存症の治療では、ナルトレキソンよりもブプレノルフィン(商品名:レペタン)の維持療法が有効なことが、イエール大学医学部精神科の Richard S Schottenfeld氏らがマレーシアで行った無作為化試験によって明らかとなった。ヘロイン依存症の効果的な治療法へのアクセス拡大は、HIV感染 の低減の面からも医療上の世界的な優先課題とされる。Lancet誌2008年6月28日号掲載の報告。

ナルトレキソン、ブプレノルフィン、プラセボを比較する無作為化試験

研 究グループは、ヘロイン離脱の維持、ヘロイン依存の再発予防、HIV感染リスク行動の低減に向けて解毒治療および薬物カウンセリングを受けているマレーシ ア人の患者を対象に、ナルトレキソン、ブプレノルフィン、追加治療なしの群の効果を比較する二重盲検プラセボ対照無作為化試験を実施した。

ヘ ロイン依存症患者126例が、24週のマニュアルによる薬物カウンセリングに加えナルトレキソン維持療法を施行する群(43例)、ブプレノルフィンを投与 する群(44例)、プラセボ群(39例)に無作為に割り付けられた。薬剤は二重盲検、二重ダミーバイアス法に基づいて投与された。

主要評価項目は、治療6ヵ月における初回ヘロイン使用までの日数、ヘロイン再使用(尿検査で3回連続陽性)までの日数、ヘロイン離脱の最長継続日数、HIV感染リスク行動の低減とし、週3回の尿検査が行われた。

本試験は、中間解析の安全性評価でブプレノルフィン群の有意な有用性が確認されたため、22ヵ月で登録が中止された。

ブプレノルフィン維持療法は優れた公衆衛生学的アプローチ

初 回ヘロイン使用までの日数(p=0.0009)、ヘロイン再使用までの日数(p=0.009)、最長ヘロイン離脱継続日数(p=0.0007)はブプレノ ルフィン群が最も優れ、プラセボ群が最も劣っていた。ブプレノルフィン群は、初回ヘロイン使用までの日数がナルトレキソン群(ハザード比:1.87、 95%信頼区間:1.21~2.88)およびプラセボ群(ハザード比:2.02、95%信頼区間:1.29~3.16)よりも有意に長かった。

ブ プレノルフィン群は、ヘロイン再使用までの日数(ハザード比:2.17、95%信頼区間:1.38~3.42)、最長ヘロイン離脱継続日数(平均日 数:59日 vs. 24日、p=0.003)がプラセボ群よりも有意に長かったが、ナルトレキソン群との間には有意差を認めなかった。

ナルトレキソン群とプラセボ群の間には、いずれの項目にも有意な差は見られなかった。HIV感染リスク行動は3群ともがベースラインに比べ有意に低下した(p=0.003)が、3群間に有意な差は認めなかった。

「これらの知見は、ヘロイン依存症に関連する問題を効果的に低減させる公衆衛生学的なアプローチとして、ブプレノルフィン維持療法を広く普及させるのに役立つ」と、著者は結論している。

(菅野守:医学ライター)

文献
Schottenfeld RS et al. Maintenance treatment with buprenorphine and naltrexone for heroin dependence in Malaysia: a randomised, double-blind, placebo-controlled trial. Lancet. 2008 Jun 28; 371(9631): 2192-200.

(以下、psycho)

そんなものかなあと思いました。ヘロイン依存症の人たちのヘロインへの依存を、単にレペタン(=ブプレノルフィン)への依存に置き換えただけじゃないのかなと思いました。

詳しい経過を書いていないので、なんとも言えませんが・・・。

実は、依存物質を置き換えるという方法は、依存症治療では、すでに一般的です。たとえば、アルコール依存症の人に対して、ベンゾジアゼピン系の薬物を投与開始するというものです。でも、私はこのベンゾジアゼピン系薬物は、多くても10日しか処方しません。

言えることは、10日以上内服していたら、今度はアルコールではなくて、ベンゾジアゼピン系薬物の依存症になる可能性があるから処方しないのです。

この記事のあと、この被験者の人たちが、レペタンを求めて救急外来をうろつくことはなかったのでしょうか?

レペタンと同じ系列の薬物の依存症の人にお会いしたことがあります。毎日その薬物を注射してもらうために、救急外来に来るのです。そして、ご丁寧に毎日それを処方する医者・・・。ちなみに、私ではない、別な科のお医者さんです。

いろんな事情があるのでしょうけれども、おかしいと医者は思わないのでしょうか?そんなふうに思いました。依存症だと、思ったことさえないんだろうなとその人のカルテを見て思いました。

その人に私は思い切って、「薬、打ってもらうのやめたら?」と言いました。いや、今思うと命知らず、というか・・・。若いからできたことでしょう。今から大体10年前くらいです。するとその人は私に言いました。「そうだよな。やめるかな」。

私は調子に乗って、いろいろと話をしました。少なくとも、その人がやめたいかもしれないと思ったので、うれしかったのです。馬鹿だって言いましょうか・・・。

結局その人と二度と会いませんでした。会えませんでした。

依存症って、簡単じゃないんですよね・・・。でも、すんごくうれしいこともあって、100回のうちほんの1回あれば、いいなと思えるのです。

これって、依存症の人への依存症?!




 




2008年7月18日金曜日

これでいいのだろうか・・・。

私の外来でもよく聞く話なのですが、これでいいのだろうか、と思っていました。それに対して、裁判での判決です。


うつで休職中の解雇無効 「権利乱用」と松山地裁

記事:共同通信社
提供:共同通信社

【2008年7月17日】

 うつ病と診断され休職中だった愛媛自動車学校(松山市)の女性事務員(31)が、回復したのに解雇されたとして、同校に地位確認や損害賠償を求めた訴訟の判決で、松山地裁は16日、「解雇権の乱用で無効」とし、未払い賃金約500万円の支払いなどを命じた。

 判決によると、女性は1999年から同校で勤務。2006年3月にうつ病と診断され、同年5月から2カ月間の休職を命じられた。同6月、「症状は改善しており、定期的通院は中止する」とする医師の診断書を添えて、復職願を提出したが解雇された。

 山本剛史(やまもと・たけし)裁判長は「6月には客観的に見て職務を行える状態まで回復していた」と認定。校長らについて「女性の復職の可否を真摯(しんし)に判断する姿勢が当初から欠けていた」と述べた。


(以下、psycho)

 定期的通院は中止されて、回復されたと認められたこの方。
 うつ病で休職中に解雇されるという事態は、私の外来に来てくれている方たちによくあったお話なので、今回の裁判の結果はよかったなあと思います。病気で解雇されるなんて、まったくあほらしい話ですから。

人間は病気にもなるし、事故にも遭う。そのことを無視するのは、どうなんでしょう?ずっとそう思っていましたから、この裁判の結果が良かったと思うわけです。
 
 ただ、この方は大体3か月で、「定期的に通院する必要はない」という診断書をもらっているのです。

 逆に、どんな状況でうつ病に至ったのか、どんなふうにして3か月でよくなれたのか、と私は思ってしまいました。

 うつ病だと、私の場合、年の単位で外来にきてもらっているので・・・。

 この方の主治医が名医なんだろうなあと思って、わが身の腕の悪さを振り返るのでした。

2008年7月17日木曜日

万能な医者?! 

医学は万能ではない、という事だと思うのですが・・・。



《初診、くも膜下出血6.7%見落とす CT実施せず 脳神経外科学会調査》

記事:毎日新聞社提供:毎日新聞社【2008年7月8日】

くも膜下出血:初診、6.7%見落とす CT実施せず--脳神経外科学会調査
 
くも膜下出血の患者のうち、脳神経外科医以外が初診した6・7%が風邪などと診断され、事実上、病気を見落とされていたことが7日、日本脳神経外科学会の調査で分かった。患者が軽い頭痛しか訴えなかったことなどから、くも膜下出血を発見できるCT(コンピューター断層撮影)を実施していなかった。同学会は「軽い頭痛の患者全員にCTを行うわけにはいかない。現代医療の限界とも言える」としている。
 同学会学術委員会の嘉山孝正・山形大教授らが、宮城県と山形県の2病院で、脳神経外科のカルテ全491例を調査した。
 宮城県は07年1月-08年5月が対象。198例中37例が脳神経外科医以外で初診を受け、うち10例(5・1%)が風邪、高血圧、片頭痛などと診断されてCTを受けず見落とされた。10例すべてが再発し2例が死亡した。
 山形県は96-05年が対象。専門医以外の初診は293例中48例で、23例(7・8%)が見落とされ、すべてが再発し2例が死亡した。
 見落とし計33例のうち17例は、くも膜下出血の常識に反して発症時に軽い頭痛しか起きておらず、委員会は「専門医以外では他の頭痛と区別できない」と指摘。他の16例も「診断が難しい例がある」とした。山形県では脳神経外科医でも見落とした軽度頭痛の患者が1例あった。
 米国では5-12%の見落とし率という報告がある。嘉山教授は「くも膜下出血の診断は難しく、完ぺきな診断はできない。現代の医療でも見落としは不可避という現実を周知し、脳ドックの普及など社会全体で対策を考えるべきだと思う」と話している。【奥野敦史】

(以下、psycho)
 
 医学は万能ではなく、医者も万能ではないことを、証明したものだと思います。

 私は、それは当然だと思いますし、そういう状況にむしろほっとします。

 万能である学問は進歩の余地がないです。だから、医学はこれからも進んでいく可能性のある学問だと私は思うのです。いや、学問、というよりも、そういうものだと私は思います。そう信じたいです。

 万能である医者などいないことにも、私はほっとします。だからこそ、医者が人間でよかったわけです。裏返していうと、信用できる医者(=相性のあう医者)もいるし、なんだか信用ならない医者(=相性のあわない医者)もいるわけです。診断できるかどうかは、大変な専門知識と経験を要するのですから、当然でしょう。

 むしろ、6.7%しか見落としがないことについて、わたしはほっとします。

 万能であることは、万能でない自分とあいそうにないのです。

 でも私も、体調が悪いときは、いい医者(=自分と相性のあう医者)に診てほしいのですが・・・。

2008年7月16日水曜日

「なぜ人を殺してはいけないのか?」


春日武彦著「『治らない』時代の医療者心得帳」(医学書院)を読みました。


    








けっこう最近の本なので、読んだ方も多いと思いますが。

その冒頭の章で、今日のブログタイトルの疑問について書かれていました。著者の返答も素敵なのですが、私も私なりに考えてみました。

人を殺すってどういうことなのかな?

つまり、夫や、子供や私の親と同じ、「人」をいないものにしてしまうということ・・・ですね。

まず、こう考えると恐ろしい。考えるだに、恐ろしいという感じです。恐ろしいから、できない、しない。そういう理由が考えられます。

そして、生物一般に目を向けると、共食いも含めて同種同士での争いはその種の、生存が危うい、つまりその種が今後地球上で繁栄できそうにない状況であることが多いような、気がします。そういう、まがまがしさがあります。

これも恐ろしい。考えたくないです。

もっというと、本来繁栄するはずの種が自らの種同士で殺しあうというのは、神様(やや気恥ずかしい)が決めたことで、「もう繁栄しなくていい」ということのような、そんな、私たちの知の及ばないことのような気がします。

この3つの理由で、私は、人を殺しません。そして、人を殺してはいけないと思うのです。

論理が自分のことになっていて、一般論ではない、と怒られるかもしれませんが、この疑問は私はどうしても自分に引き寄せないと、考えらえなかったのです。

みなさんは、どう考えますか?

2008年7月14日月曜日

勉強ができると、いいことがある!?

 私は、子どもの精神科を専門にしています。

 ところで、link新しくコーナーも受けました。このリンクのブログを見た方は「?」かなと思い、ちょっと書こうと思いました。

 このリンクのブログは、らくだプリントというプリント教材を用いて子供たちの学力支援をしている方のブログです。

 私の夫も、実はそのようなことをしています(が、まだブログ開設ならず・・・)。

 子どもの精神科を志した時、思ったことがありました。それは、学校との関係です。私自身は学校が嫌いなのですが、外来に来てくれる人に押し付ける気持ちはありませんし、学校に行かないいわゆる不登校の子供にとっても、そうでない子供にとっても、学校は重要な存在なのです。好き嫌いは別にしてですが。

 そんな重要な存在のもとで、自分も大事にされたくはないですか?私ならそう考えます。どうもこの考えは、割合共感されているようです。

 学校で大事にされる場合は、私はちょっといやらしいかもしれないと思いつつ、勉強ができることがある、そう思ったのでした。

 そうしたら、勉強ができるようにサポートするのが大事かなと思い、らくだプリントを自分でもやってみたら、これがよかった!

 自分のプロセスのわかる記録表に、正直に(←ここがポイント)プリントができたかできないかを書く。そしてそれを、らくだの指導者さんと共有していくのです。

 これで、私の場合かなり自信がつきました。

 いや、別に宣伝じゃなくて…。

 自分にとっていいことがあったので、外来の人たちに勧められるなと思い、らくだプリントの指導者さんたちとの交流が始まり、その延長でのリンクでした。

 私のブログと違って、写真がたくさんで、楽しめます。

2008年7月13日日曜日

秋葉原、無差別殺人事件について;アモックとの関連

週刊朝日7月18日号30ページに、秋葉原の無差別殺人事件について、「アキバ系アモク(psychoではアモックとします)」である、多文化間精神医学の権威、野田正彰先生が断じておられました。

久々に「アモク」と聞きました。

アモク=アモックだと、なかなか結びつかず・・・。

週刊朝日をよく読んで、思い出した私は、左の本のアモックの項目を読みました。




アモック、とは、なにか?
この本によれば、「厳密な意味では、アモックという用語は、アモック行為者が、格別愛憎の情を抱いてもいない人間に対して突然発作的に殺人行為に走ることをいう」ことです。

たしかに、事件の概要は、そのとおり。

ただし、本文はこのあと以下のように続きます。
「その出来事および発作前(アモック行為の前という意味)の敵意の感情について健忘が見られるのがふつうである」。

警察の発表では、加害者はこの事件の起こる前の自分の感情についてかなり、振り返っているように私には聞こえました。

しかし、もしも加害者がアモックであったとしたら、事件前の敵意の感情については、健忘つまり、忘れているはずなのではないでしょうか?

この記事では、野田先生は、本来ならばラオスやマレーシアで起こるアモックという急性精神病状態が都市で起こったと断じているのです。だから、秋葉原の無差別殺人事件は、本来のアモックとは異なるという意味かもしれません。そして、記事は後半、本人の精神病理性にも触れています。だから、完全にあの事件がアモックのみで説明できるとは、野田先生は言っていません。

でも、自覚的になってほしいです。野田先生には。

というのも、このようなメディアで「アモック」という用語を使ったとしたら、それは新しい病気の概念を作ったのと同じかもしれないと私は思うからです。

だとすると、そのことを丹念に説明し、多くの人のコンセンサスを得なくてはならないのではないでしょうか?

それを学会以外の場所で丹念にされているようにも私には思えなかったのです。学会誌などの投稿はおありだったと思いますが、私の不勉強からか、この手のアモックが都市化した疾患概念を、何らかの形で(たとえば単行本などで)発表しておられなかったように思います。

アモックという、新しい概念を導入してこの事件を説明したとすれば、急性精神病と同義とされる可能性もあり、そうなると、司法の場で加害者が減刑、もしくは無罪にまでなってしまうかもしれません。(心神耗弱もしくは心神喪失の適用=刑法39条による)。

それは、違う。私は、このブログで繰り返し述べているように、違うと思うからです。

2008年7月12日土曜日

内在化

 休職があけて、外来を再開した時に、女性の方(しかもお二人)から
「ずっと、先生のことを考えてました」
と告げられました。

 びっくりしました。

 これが男性でもびっくりしたのでしょうが・・・。

 そんなに?どうして?という感じです。

 「治療者が内在化したからじゃないですか?」と一緒に働いている臨床心理の先生には、言われました。

 そういうことかもしれません。だといいのかな。

 でも、その内在化した私にいいたい!
 もっと働いて、その人を治してください!という気がするのですが・・・。

2008年7月11日金曜日

「見えない障害」

最近になって、ようやくという感じです。

「見えない障害」救済を 言語や記憶に後遺症 高次脳機能障害

記事:毎日新聞社
提供:毎日新聞社

【2008年7月10日】

高次脳機能障害:「見えない障害」救済を 言語や記憶に後遺症 /奈良

 ◇認定条件欠きながら、勝訴も

 交通事故で脳が傷つき、怒りっぽくなったり聞いたことをすぐ 忘れるなど、さまざまな症状が現れる高次脳機能障害は、周りから障害を負ったように見えず、「見えない障害」とも呼ばれている。昨年12月末、札幌市の 20代の女性が交通事故で高次脳機能障害を負ったとして、トラックを運転していた男性に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は男性側の上告を退け、約1億 1800万円の支払いを命じた判決が確定した。女性は脳の損傷の痕跡がないなど、障害認定の条件を欠きながらも、症状から事故で障害を負ったと判断され た。県内でも同様に、条件を欠きながらも障害認定を求めて裁判で争っている人たちがいる。原告の中には、家族や仕事を失い、経済的に追いつめられている人 たちも多い。当事者らに思いを聞いた。【石田奈津子】

 札幌市の女性の裁判では、女性が97年に母親が運転する軽乗用車に乗った際、市内の交差点で男性が運転するトラックに追突され、記憶力や集中力が著しく低下する高次脳機能障害になったとして、加害男性に損害賠償を求めた。

 1審はMRI(磁気共鳴画像化装置)で脳の萎縮(いしゅく)が見られないなど、女性が障害認定の条件を欠いていたことなどから訴えを退けた。

 2審は事故後の症状や日常行動から同障害と認め、男性に約1億1800万円の支払いを命じた。最高裁は加害男性の上告を棄却し、2審の判決が確定した。

 「時々死にたいと思うことがありますよ」。上牧町緑ケ丘1、無職、森英樹さん(57)はつぶやく。

  森さんは03年6月、最寄り駅のJR王寺駅前からミニバイクで自宅に帰宅途中、交差点で男性が運転するミニバイクと衝突した。頭部外傷、首のねんざなどの 後遺症の他、失語症や記憶障害などの症状が現れた。しかし、自賠責法に基づく後遺障害認定では、労働能力の5%が失われたなどとする「14級」にとどま り、高次脳機能障害など、精神面に関する障害は認められなかった。

 「事故後、私は以前の私とは大きく変わりました」と森さんは話す。勤務していた金融機関で客との約束を忘れてしまう、筋道を立てて話せない、感情を抑えられない--といった症状に悩まされ始めた。

  「自分にとって衝撃だった」のは、事故後、勤務先でとった自分の行動。周りからは「温厚な性格」といわれてきたという森さんだが、仕事上のちょっとした口 論から5歳年上の男性の先輩を怒鳴りつけ、突き飛ばした。「感情が高ぶってコントロールできなかった。今までなら考えられないことだった」と振り返る。

 家族との関係も壊れた。事故当時、森さんは妻と長男夫婦らと同居していた。05年4月、復職を巡って妻と口論。頭を殴り、床に転倒させてしまった。幸いけがはなかったが、妻とはその後、協議離婚した。

 仕事も辞めざるを得なかった。今は、障害基礎年金などを受給し、一人で暮らしている。「次男の子どもがこの先月生まれたのに、何もしてやれない。働けるのなら働きたいが…」と話す。

 森さんは、このような症状は高次脳機能障害の特徴で、自分の後遺障害は5級以上だとして、昨年4月、男性を相手に損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こした。男性側は「事故と障害との因果関係はない」として争っている。

 最高裁へ上告し、認定を求めていた女性もいる。御所市、無職、根比恵美子さん(59)。06年1月、最高裁で敗訴が確定した。「悔しい。あの事故で私の人生は変わったのに…」とため息をつく。

 根比さんは95年6月、自らが経営する喫茶店の前で、高専生が運転するミニバイクにはねられた。深夜、客を見送っていたところだった。救急車で県立医科大に運ばれ、後日、別の医院で歩行障害、味覚・きゅう覚低下などの診断を受けた。

 事故で根比さんはさまざまな障害を負った。右手の握力が失われ、タバコを持つ手もふらつく。きゅう覚と味覚が失われたため、何を食べてもおいしいと思わなくなったという。

  他にも変化が出てきた。新しい言葉を覚えられない、自分がしたことを忘れてしまう--などだ。「やかんを火にかけていても、そのことを忘れる。きゅう覚も 味覚もないから、気づいたらやかんが真っ黒」。何十人といる僧侶がお経を唱える夢を何度も見るようになった。今は精神安定剤や睡眠薬など1日12錠の薬を 飲んで眠る。

 根比さんも事故後、自賠責法に基づく後遺障害の認定を求めた。認定は労働能力の14%が失われたなどとする「12級」にとど まった。根比さんは高次脳機能障害で7級が妥当として、2000年12月に奈良地裁葛城支部に提訴。以来、裁判で争ってきたが、結果は最高裁での棄却だっ た。問題点は「意識障害が軽度など、高次脳機能障害の判定基準に当てはまらない」という点だった。

 高次脳機能障害は、脳が事故の衝撃で傷つき、認知障害や人格変化を起こす。典型的なな症状としては、注意力や集中力の低下、新しいことが覚えられない、感情や行動の抑制が効かなくなる、的確な言葉が出にくいなどがある。

  高次脳機能障害の認定には3条件あり、(1)MRIやCT(コンピューター断層撮影)などの画像で、交通事故による脳の損傷が認められる(2)事故後、刺 激を受けても反応しないなど、意識障害が一定時間継続した(3)現在、高次脳機能障害に当たる症状がある---のすべての条件を満たす必要がある。

 同障害の患者を多く診てきた「やまぐちクリニック」(大阪府高槻市)の山口研一郎医師は「高次脳機能障害は時に、MRIなどの所見に表れないこともある」と主張する。山口医師が今までに診てきた患者約270人のうち約30人は(1)(2)の症状がなかったという。

 根比さんのケースも同様だ。「頭を強く打ち、傷はないにもかかわらず、事故後様子がおかしいという人がいる。私の検査結果を全国に広げて考えると、事故後、障害が生じても、高次脳機能障害と認められていない人は10%ほどいるのではないか」と話す。



(以下、psycho)

交通事故による外傷やけがで、これまでには予想もできなかったことがおこるのです。

私は、高次脳機能障害の方には外来であったことはありません。でも、自分がそのような人を見逃しているかもしれないし、今後外来でお会いするかもしれないと思ってはいます。

精神科の中には、本当は高次脳機能障害で、精神症状があるという人も多いのではないかと思います。そういう人たちに対して、障害年金が10級台というのは、私にとっては信じられないことです。

障害年金でしか生活を立てられないこともあるだろうし、そうなったら、どうなるのだろうと不安でしかないのに、受給額があまり高くない状態になるなど、考えると自分ならば怖いです。

私の外来にも、交通事故でPTSD(心的外傷後ストレス障害)になってしまった、高校生の女の子が来てくれてます。私は、極端に言うとこの人も高次脳機能障害に陥ってしまったかも、とおもっていました。いえ、今もその考えはぬぐえません。

交通事故後に、性格が変わったなあと家族も本人も話されるのです。

確かに、少しずつ良くなったのですが、このあとどうなるかなあと思っています。
彼女の診療費は、事故によるもので保険(加害者の方の)で賄われています。

交通事故、つらいです。

2008年7月7日月曜日

EMDRを導入するにあたって

勤務先の病院で、一緒に働いているスタッフをEMDRの研修会に推薦することになって、その時に必要になった、EMDR導入の企画書のようなものを以下に掲載します。


EMDRをなぜ導入すべきと考えるか?

FDAは2004年に「抗うつ薬治療を受ける自殺傾向の児童及び青少年に対する公衆衛生諮問」 を発表し、SSRIによる治療のリスクを警告した。その後、2008年6月16日にさまざまなランダム化比較対照試験に基づいて抗てんかん薬に伴う自殺リスクの統計のまとめと評価の最新版を5月23日にインターネットで公開した。

 また、

高齢認知症患者では、抗精神病薬治療開始から30日以内の入院または死亡のリスクが大きいことが、大規模試験で示されたと、発表されている。

この知見は、『Archives of Internal Medicine』2008年5月26日号に発表された大規模地域住民レトロスペクティブ(後ろ向き)コホート研究によるものだ(カナダ)。

つまり、北米圏では、精神疾患に対する薬物療法に関するリスクが近年クローズアップされている。

また、アメリカ合衆国(米国)における医療費の高騰が精神科病床数を減少して、社会的入院を減らし、短期間による治療を地域で行うことにより、減じていった。さらに、米国での、医療保険会社では、認知行動療法などの非薬物療法が、支持される傾向が指摘されている。

上記のことから考えて、米国の精神科治療の流れがメインとなっている本邦において、いずれ精神科薬物療法に変わり、認知行動療法などの精神療法が第一選択となっていくことが予想される。

以上から、EMDRを導入していくことは、今後本邦において重要性を持つものと考えられる。よって、このことをもって、EMDRを導入すべきと推挙する。

(以下、psycho)

上記の記事も私が書いたのですが…。

EMDRとは、(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理)は、最近マスコミなどでも取り上げられることの多くなったPTSD (Post Traumatic Stress Disorder:外傷後ストレス障害)に対して最も効果的 と言われて、大変注目されている治療方法です(日本EMDR学会HPより)。

記事にも書いたように、今や米国やカナダという北米圏では薬物療法よりも、他の治療法が精神科では模索されているのです。

確かに副作用は少ないようにみえるし、短期間で終了できそうだし、よいと思います。まだまだ、効果や副作用はわからないことも多いですが。

米国やカナダがやっているから、というよりも、いずれ体にあまり負荷をかけない治療法として、確立していきそうなのです。

日本のこれまでは、精神科も同様に、北米圏のトレンドを引き継いでいることが多いです。だとすれば、当然、EMDRも導入される可能性が高いですし。

EMDR、頼りにしたいものです。

2008年7月6日日曜日

手術後

 私は6月に手術をしました。

 子宮外妊娠だったので、卵管も取りました。それは、仕方ないと私は思っています。というか、そうとしか考えられないです。

 その直後は体の異変を感じなかったのですが、復職すると最近、疲れるとおなかをこわすという事態が発生しました。

 意外でした。私は、今までそんなことがなかったので。

 あと、やたらにトイレが近くなった感じです。

 子宮外妊娠で、緊急手術するとこういうことが起こるのでしょうか?

2008年7月5日土曜日

体に「悪い」こと

嗜好品は体によくないのがいいのでしょう。例えばタバコ、でしょう。

≪喫煙が中年期の記憶障害のリスクにつながる可能性がある≫

提供:Medscape

大規模プロスペクティブ(前向き)コホート研究によれば、喫煙は中年期の記憶障害と認知機能低下のリスクを増大させる。

【6月12日】大規模プロスペクティブ(前向き)コホート研究であるWhitehall IIのデータ分析で、喫煙は中年期の記憶障害と認知機能低下のリスクを増大させることが示された。

この知見はフランス国立保健医学研究所(ビルジュイフ、フランス)のSéverine Sabia, MScらが『Archives of Internal Medicine』6月9日号に発表した。Sabia 氏がMedscape Psychiatryに語ったところによれば、喫煙歴のない被験者に比べて喫煙者は、その他の交絡因子で調整しても、記憶試験のスコアが最下四分位域にな るリスクが37%高かった(単語20語のうち想起できるのが5語未満である傾向が強かった)。

中年期での認知機能低下
「認 知機能低下が始まるのがまさに中年期であるということを考えれば、このリスクはきわめて重要だ」とSabia氏は記している。この年齢層でこうした連関が あるというエビデンスは、将来の認知症のリスク因子である症状発現前の認知機能の障害と低下の病理発生に喫煙が関係するという説を支持するものと言える。
人口の高齢化が進み、認知症の高齢者の増加が予測されるので、修飾可能なリスク因子を特定することが重要だと氏は記してお り、さらに「今回の我々の結果によれば、喫煙は中年期の認知機能に有害な影響があると言える。(しかし)禁煙から10年経つと、認知機能に対する喫煙の有 害作用はほとんどなくなる」とも述べている。「したがって、公衆衛生の広報は全年齢の喫煙者を対象にしなければならない。」
著者らによれば、最近のメタアナリシスにおいて喫煙は認知症のリスク因子であることが結論づけられているが、喫煙と認知機能(思考、学習、記憶)との関連性を調べる研究は、被験者が追跡外来に再訪しなかったり、喫煙関連疾患で死亡する者が多くいるために、困難である。 その反面、中年期でのリスク因子がその後の認知症にある役割を果たすというエビデンスが増えつつある。

禁煙が記憶を損なう?
研究グループは、中年者の喫煙歴と認知機能との関連を調べた。
健 康と疾患における社会経済的傾向を検証することを目的としたWhitehall II研究のデータを研究グループは分析した。Whitehall IIの登録者は、1985年から1988年までの調査開始時(第1期)に35歳から55歳であったロンドンの公務員10,308例(男性6895例、女性 3413例)である。
Sabia氏によると、認知機能の評価は第5期に行った。この時点での被験者の年齢は45歳から68歳(平均55.5歳)であり、その5年後の第7期での被験者の年齢は50歳から74歳(平均61歳)であった。

第5期には5388例、第7期には4659例から、記憶、推論、語彙、意味的・音声的流暢性の検査で認知機能のデータを得た。
喫煙の評価は、調査開始時と第5期に行った。調査開始時の平均喫煙本数は1日に14本であり、1日に吸う本数が5本未満である者が25%、1日に1箱から2箱吸うヘビースモーカーが25%いた。ただし、氏によると1日に2箱よりも多く吸う被験者は27例しかいなかった。

4つの重要な知見
この研究の重要な知見は4つあると、著者らは記している。
第 1に、中年期での喫煙は記憶障害と類論能力低下に連関していた。第5期では、性別、年齢、社会経済的差、健康習慣、健康法で調整すると、現在の喫煙者は喫 煙経験のない者に比べて認知機能の成績が最下四分位域に入るリスクが37%大きかった(オッズ比は1.37、95%信頼区間[CI]は 1.10 - 1.73)。
第2に、長期間喫煙していた元喫煙者(研究が開始する前に喫煙を止めた者)は喫煙者に比べて、語彙成績低下と発話流暢性低下のリスクが30%少なかった。
第3に、中年期での禁煙には、飲酒量の減少、身体活動の増加、フルーツや野菜の摂食量の増加といった健康習慣の改善が伴って見られた。
第 4に、喫煙者は非喫煙者に比べて、第7期まで(平均追跡期間 17.1年間)に死亡する傾向が大きく、認知検査を受ける傾向が小さかった。このことは、検査を受けていない者の中に認知機能が低下している者が含まれて いて、後期中年期における喫煙と認知機能との関係が過小評価されている可能性があることを示している。
他の研究により、軽度の認知障害を有している者は臨床的症状から診断できる認知症に進行する速度が速いことが示されていることから、以上の知見は重要であると著者らは記している。

禁煙するのに遅すぎることはない
「この20年間において、喫煙に関する公衆衛生の知識の広報によって喫煙行動が変化してきた」と著者らは記している。今回の研究に基づき、「公衆衛生の喫煙に関する広報活動は全年齢層の喫煙者に対して継続すべきである」と著者らは結論で述べている。

こ の研究は、英国医学研究審議会、フランス研究省、欧州科学財団の支援を受けている。Whitehall II研究は、英国医学研究審議会、英国心臓財団、英国保健安全執行部、英国保健省、米国立心臓肺血液研究所、米国立加齢研究所、米国医療政策研究機構、 John D. and Catherine T. MacArthur財団中年期能力・経済・健康開発研究ネットワーク(Research Networks on Successful Midlife Development and Socioeconomic Status and Health)の支援を受けている。著者のうち2名が資金を受けている。その他の著者の開示情報には、関連する金銭的利害関係はない。
Arch Intern Med. 2008;168:1165-1173.

(以下、psycho)

 私は、禁煙推進派です。タバコはやめてほしいです。個人的には、嫌いなので。

 確かに上記の記事のように、喫煙には体に悪いことが山積みです。だから禁煙しましょう。

 でも私はひねくれ者なのでしょう。そういわれると、本当にそうなのか?と思ってしまいます。もしも、体に悪くて、私のように嫌いな人ばかりであれば、なぜタバコを販売するという仕事がなくならないのでしょう?なぜ、タバコを吸いたがる人がいるのでしょう?

 タバコに関しては、ニコチンという依存物質がありますから、依存症とみていいでしょう。ニコチン依存症もよく知られたことです。そうなってしまうとわかっていても、つい吸ってしまう。吸いたくなってしまう。

 私個人としては、タバコは嫌いですが、人間の「体に悪いことをしてしまう」という心性は、むしろうなづけるというか、心から「そうだよね」と言いたくなる部分です。そして、それがあるから人間だろうと思えるのです。

 世の中、正しいことだらけだと、つらいですから。

 私はいつも肝に銘じているのは、私が個人としてタバコを嫌いであるということであって、医療関係者としてタバコを勧めないということとは違うということです。

 正しいことを、押し付けることはしたくないのです。

 正しいことをいっていると、なんだか自分が偉くなったような錯覚が起ってしまい、自分がダメになりそうな気がするのです。

 いや、こんな「正しいこと」をいっていると、このあと、甘いものの誘惑に耐えられない自分が「悪いこと」をしているという罪悪感にとらわれそうで、余計にそう思うのでしょう。

 正しいことをいえば、いい人とか、正しい人というわけでもないですからね。

2008年7月4日金曜日

高校生の頃からの疑問

 私は、精神鑑定は難しいので、したくないという気持ちでいるのです。それと同じことを書いている記事ではないでしょうか。


 
≪判断分かれる精神鑑定 難しい法的な評価≫

記事:共同通信社
提供:共同通信社

【2008年6月30日】

 茨城県土浦市の3人殺害事件で27日、無罪を言い渡した水戸地裁土浦支部の判決は公判中に行われた精神鑑定を重視、心神喪失で刑事責任能力はないと判断した。だが精神鑑定の扱いをめぐっては最近、裁判所によって判断が分かれている。

 最高裁は4月の傷害致死事件の判決で「合理的な理由がない限り(専門家による精神鑑定結果を)十分尊重すべきだ」とする初判断を提示した。

 東京都渋谷区の短大生殺害、切断事件で兄の元歯学予備校生に対し、東京地裁は5月「死体損壊時は多重人格状態で、心神喪失状態だった」と結論づけた精神鑑定を認定。「殺人を有罪、死体損壊は無罪」とし、鑑定重視の姿勢を示した。

 一方、渋谷区の夫殺害、切断事件で東京地裁は4月、「心神喪失」とした鑑定に縛られず、犯行前後の行動などから「完全責任能力があった」と認定した。

 精神鑑定の扱いについては「精神医学を法的に評価する司法精神医学がまだ確立されてない」(ベテラン裁判官)との意見があり、大きな課題があるのが実情。

 来年5月から始まる裁判員制度では、一般市民が責任能力の有無を判断することになる。鑑定はその指針になる重要な判断基準であり、分かりやすい鑑定が今後ますます求められている。



(以下、psycho)

 精神鑑定を依頼されたことは、私にはないのですが、先輩(大学医局時代の)によれば、難しいそうです。

 「難しい」というのは、形容詞なので、どうしてもお互いが納得できる部分が難しいのですが、精神科的な考え方を、検察や司法関係者に伝えるのが難しいという意味のようです。

 私は、違う意味で難しいと思います。
 精神科的な考え方よりも、加害者がその事件の際に正常な精神状態であったかどうかを、事件後に追跡するのは難しいだろうと思うのです。というか、私はべつに「難しい」ことを考えているわけではないと思います。

 そんな難しいことをするよりも、悪いことをしたら罰を受けるというストレートな原則がいいのではないかと考える単純な私なので、精神鑑定の意味がよくわからないです。

 20数年前の本多勝一著「殺される側の論理」の最初の章で書かれていたのが、脳性マヒの子供への殺人を犯した親の話でした。この人は、心神喪失という名の下で罪状軽減につながったのです。それはでも、おかしいと当時高校生の私は思いました。

 事件当時、精神的に不調なら無罪?でも、やったことは精神的に不調かどうかには無関係でしょう?それをずっと考えていました。

 そして、日垣隆著「そして殺人者は野に放たれる」(新潮文庫)も読みました。これはつい最近ですが。

 高校生の頃の疑問と結論は、結局当時と同じ所へ行きついてしまいました。そして、それでようやく私は納得できたのでした。











2008年7月3日木曜日

社会的入院って、なに?


精神科で問題になっている、社会的入院のお話です。

2008/06/30(月)
《統合失調症9793人のうち417人が退院 厚労省の「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」》

厚生労働省は25日、「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」(座長・樋口輝彦国立精神・神経センター総長)を開き、「精神病床の利用状況に関する調査」の速報を報告した。調査対象は、国立病院機構、自治体病院、大学附属病院などの精神科病院1542病院。うち回答提出施設数は996、提出率は64.6%だった。内訳は、自治体病院77(提出率47.0%)、大学附属病院32(同41.6%)、国立病院機構16(同45.7%)、公的病院13(同27.1%)、民間病院(日本精神科病院協会員)858(同70.4%)。それぞれ入院患者の1割を抽出し、2月15日時点と3月15日時点の状況を調査した。
主診断別にみた退院の状況(2月15日時点と1カ月後の比較)は、統合失調症は入院9793人の中退院は417人。認知症疾患は2837人中206人、気分(感情)障害は1078人中217人、アルコールによる精神・行動の障害は733人中114人、その他の精神病性障害は531人中62人だった。退院の割合が大きかったのは、小児期・青年期に発症する行動・情緒の障害が38%で最も多く、次いで生理的障害・身体的要因に関連した行動症候群32%、神経症性・ストレス関連・身体表現性障害27%、気分(感情)障害とその他の精神作用物質による精神・行動の障害がそれぞれ20%の順となっている。

(記事提供:医療タイムス)

(以下、psycho)

 症状は改善して退院しても生活できるが、退院して生活する場がないために入院している状態、それが社会的入院、と私は理解しています。

 精神科の患者さんたちは、社会的入院が多い、それゆえに退院促進が必要である、と言う流れの中で、上の記事が意味を持つのだと思います。これが、内科や外科であればこのようなことは、考えにくいのです。

 精神科に対する偏見を持つな、といっても、持つ人は持ってしまいます。だからこうして、退院促進するための干渉が必要なのでしょう。

 でも、それも悲しいと思えてしまうのですが。

 もちろん、退院したからといってかならずしもその場所がバラ色の場所ではないと思いますが、その苦労を引き受けて暮らしていくのも、生きていく味なのかもしれない・・・と思ったりします。この考えは北海道浦河町のべてるの家のもので、私がそれに賛同しているのですが。

 確かに、今苦しんでいる人にとって、無責任に響くかもしれません。

 他の疾患のように、よくなったら退院することが当たり前になるには、どうしたらいいか。その一つが上の記事だと思います。
 
 でも、出来ればその退院した人たちがどんな風に暮らしているかも、報告してほしいものです。

2008年7月2日水曜日

高齢者のPTSD

 
私は、そうなる、と思っていた記事でした。



≪高齢患者に対する心的外傷後ストレス障害(PTSD)の評価を推奨≫


ニューヨーク(ロイターヘルス)‐Journal of Clinical Psychiatry誌5月号で発表された研究結果によると、心的外傷後ストレス障害(PTSD)は高齢の被験者において珍しくなく、PTSDの持続期間 の診断はこの集団における抑うつ状態および不安の症状と関連している。

Universitatsklinikum Hamburg-Eppendorf(ドイツ ハンブルグ)のDr. Carsten Spitzerらは、ドイツ人成人3,170名のトラウマへの暴露とそれに続くPTSDのリスクを調べた。

参 加者は、若年群(44歳以下)、中年群(45歳から64歳までの間)、および高齢群(65歳以上)に分類され、PTSDモジュールである Structured Clinical InterviewおよびComposite International Diagnostic-Screenerによる評価を受けた。

全体で被験者1,730名(54.6%)が少なくとも1回のトラウマ的体験を報告した。高齢群のトラウマへの暴露のオッズは、若年群より4倍近く高かった。高齢群のトラウマ的体験の平均回数(2.06)も、中年群(1.31)および若年群(1.34)より有意に高かった。

一 般に、トラウマへの暴露のリスクは、高齢女性と比べて高齢男性で有意に高かった(p=0.012)。しかし、PTSD有病率に性差はなかった。PTSDと 診断された高齢の被験者は、PTSDのない被験者より精神医学的症候群罹患のオッズが有意に高かった(オッズ比=9.10; p<0.001)。抑うつ状態および不安が最も多い病状であった。>


(以下、psycho)

 高齢者のトラウマが今まで全然問題にされていなかったとしたら、それはすごい問題だと思います。私はだいたい外来で高齢の方を診察する機会は少ないのですが、それでも1%くらいはそういう方がおられるのだと思っています。

 これまで、DVの被害にあわれた方(70歳代)、セクハラの被害にあわれた方(60歳代)数名とお会いました。20歳代のころからの被害でしたが、年月がたてば解決するというものでもないですし、今でもそれが継続しているということがほとんどでした。

 どの人も皆、DVとか、セクハラという言葉が一般的になったことで初めて自分の話を同性の私にしてみようと思った、とおっしゃいます。私が生きているのと同じ年月くらい被害にあい続けている方たちがたくさんいると思うと、私に何が言えるのか、何をできるのかと、苦しくなります。

 でも皆さん、「話を聞いてくれて、ありがとう」と言ってくれるのです。もちろん、傾聴すればいいというものではないと私はわかっている・・・つもりですが・・・。

 時々、「昔はよかった」という懐古主義の方がおられます。
 
 私はそうは思いません。今の時代に、こうして、DV,セクハラ、PTSDなどの言葉が生まれて、多くの人が知るようになったことで、自分の苦しみに言葉が与えられて、解決が難しいとしても自分自身に対して自分がおかしい経験をしているわけではないのだという、納得というか、感覚が得られるのがよかったのかもしれないのです。

 そして、よかったはずの昔の方が(特に男性が多いようです)、DVやセクハラの加害者なのですから。

 もちろん、これは私個人の感想でしかないです。
 
 ただ、私の経験がこの感想を作っているといえましょう。