2009年4月29日水曜日

「おばあさんと、おかあさんの主治医」

 私の外来は、ひとつは総合病院の外来で、もうひとつは精神科の専門病院で行っています。

 総合病院の外来では、子供ばかり診ているわけにはいかない状況です。というのも、私の住む東北では日本最大級の高齢化が進行中なので、いつもいつも、70歳代以上の人たちとお会いします。

 そうなると、たいていは認知症の方が多いです。

 家族の人にしてみれば、それまでしっかりしていたおばあさんやおじいさんが、あまりにも自分の言っていることを理解しないで、つじつまの合わないことをしていると、切なくなるのだろうなあと、日々私は思っています。

 そうです、認知症の人たちは論理をつかさどる前頭葉の機能が低下しているので、私たちの論理はほとんど通じないのです。

 かわりに、感情的なことがらをもとにして、今自分の置かれている状況を把握しようとします。

 つまり、家族がとげとげしく話しかけると、不安が募って、叫んでしまったり、泣いたりしてしまうのですが、穏やかに話しかけると、優しく応対してくれることが多いのです。

 しかし、これはかなり「試される」事態です。

 一度や二度ではなく、ほとんどの生活シーンでこのことが要求されるので、疲れることこの上ないことです。

 おそらく介護の疲れというのは、コミュニケーションが成り立ちにくいということからくるのだろうと思います。

 そうなるとたいてい私は、家族の方たちも診療することになります。するといつの間にか、その人の家族つまりは孫世代に到達することも多いのです。

 私の状況を見て、「児童精神科医なのに」とおっしゃる方もいますが、結局は私にとっては単なる遠回りではなくて、私は「祖父母世代、父母世代の信頼を得ている人」として、子供たちの前に登場できるのです。だから、信頼関係のベースを構築する手間はかなり省略できることも多いです。

 そういう意味で、総合病院の外来も気に入っています。

2009年4月20日月曜日

「発達障害のある子どものきょうだいたち」

 昨日4月19日は、すくーるばくでの読書会でした。

 吉川かおり著「発達障害のある子どものきょうだいたち」がテーマでした。私はこの本はかなりいい本だと思っています。というのも、これまでほとんど注目されなかった発達障害のある子どものきょうだいたちに光を当てて、どういうことを考えているのか、発達障害のあるきょうだいとどのような生活をしてきたのか、どういう存在だと思っているのかということを書いているからです。

 中でも私が意外だったのは、この本の調査に協力した人たちはほとんどが発達障害という障害をもったきょうだいのことを「とくに他のきょうだいと違うと思わない」と答えている点です。

 私の外来にくる人の中で、発達障害の人のきょうだいで、うつ病のような方がいます。その人は、語らないのですが、すくなからずその人のそれまでの生活の中で、発達障害のきょうだいの存在が何かしらの影響を及ぼしていて、もしかするといまの状況にも影響を及ぼしているのかもしれない、と思えるのです。

 必ずしもそういうケースばかりではないということをこの本は教えてくれて、ありがたいしうれしいのです。

 ただ、今後私の外来で、やはりきょうだいの支援は必要になりそうです。その時のために、いま、子どものデイケアを開いて準備している状態ではあります。

 いずれ集団療法などができたら、と思うのですが・・・。

2009年4月17日金曜日

書評「ADHDの本」 司馬理英子著 


書評「ADHDの本」 司馬理英子著 主婦の友社 1300円(税別)

マンガが多くて、楽しめる本です。そこが気に入りました。そもそもこの本を読んだのは、外来で親御さんたちに勧められる本がないかな、と思ったためです。

発 達障害やADHDに関しては誤解が多いなと思ったのは、あるおかあさんから「発達障害やADHDって、薬を飲めば治るものではないんですか?!」と驚かれ てしまい、逆にこちらが驚いたことがあったので、私がたまに会って話していくほかに、手元に本があれば、必要な時に読めていいのではないかと思いました。

そこで、このタイプの本の出番だと、思うのです。

しかも発行元が、おかあさんたちに身近な出版社なので、手に取りやすいですし、専門書ではないので注文もしやすいです。

一 番いいのが、年代別に治療法が書かれていて、単に子ども時代だけではなくて、大人になった場合にも使える本です。とくに、大学生から就職するまでがかなり 必要な場合が多いので、この本はADHDのお子さんをもつお父さん、おかあさんたちが読んだほうが、今後を心配しないでいいのではないでしょうか。

私にとっても、説明しやすい点がたくさんあります。
目に見えるように説明することをさらに勧めやすくなったり、実年齢の2/3歳と思ってほしいなど、伝えるポイントが実際に書かれているのでとてもいい本です。

2009年4月15日水曜日

魔法使いのおばさん

 私の外来では、しばしば、ご本人ではなくて、親御さんが本人のことを心配して「相談」という形で受診されることがあります。

 遠回りなようですが、意外とこうすることが本人と出会う近道なのです。

 でも、「いずれ本人にお会いしたい!」という気持ちは、微塵も見せずに淡々と親御さんと出会って話をして、親御さんに安心してもらうというのが、大事なスタンスです。「いずれは本人に」という様子をあまり見せると、ご本人が腰が引けてしまうからです。

 ただ、親御さんにしてみれば大変なことです。本人がいつ受診するのかというみとおしが持てないまま、延々と自分の安心のために精神科に来続けるのは、実は大変な努力が必要なのです。仕事の調整、本人に何と話をするか、おじいさんやおばあさんに何と話をするか、などなどです。

 それをやってみてください、と私は言うわけです。

 先日も外来でそういうことを話したのですが、その時私がふと思い出したのが、童話で12人の王子様が悪い魔法使いに白鳥に変えられてしまい、末の妹がたった一人で、イラクサで服を編んでいけば元に戻ることができるだろう、と言った別の魔法使いのことです。しかも、服を編んでいる間は、一言も口をきいてはならない、というのです。

 やたらとこの魔法使い、「大変だよ」ともったいをつけていたのを子どもの頃に、「ずいぶんいろいろ言うなあ」と思った記憶があります。

 大変は大変だけど、やってやれないことはないし、と思ったのです。

 今、その魔法使いと同じように私は、「親御さんが、精神科に受診し続けるのは大変ですよ」ともったいをつけているつもりはなくても、いろいろというわけです。

 親御さんから見れば、私は魔法使いのおばさんでしょう。

 その魔法使いのおばさんが、どんなことができるのか、一緒にやっていけたら、といつも思ってい外来をしています。

2009年4月10日金曜日

勉強会

昨日、勤め先の精神科病院で夕方から勉強会がありました。

ジプレキサという薬物を使用して、統合失調症の人の治療に当たった時、長期的なQOLがどのようになるかというものでした。国見台病院(宮城県)の小田康彦先生の講演で、120例の豊かな臨床経験を提示していただいて、勇気を頂いたのでした。

中でも私が、なるほど、と思ったのは、「一番困るのは、幻覚妄想が続いていることよりも、不安、焦燥感、抑うつなどがあることで、そのほうが社会参加には障害」というお話でした。

そこから、国見台病院では精神内界を語る会があるそうです。

それを聞いて、べてるの家での「幻聴ミーティング」を思い出しました。あのころ、患者さんたちがこのミーティング後にほっとしたような、くつろぎ感があったのは、自分の話を受け入れてもらった、ということで、不安や焦燥感が紛れたのだなということだったのでしょう。

それが、べてる以外にも私の身近な場所であるということをきいて、うれしくなりました。

国見台病院、ぜひ見学したいと思いました。

2009年4月2日木曜日

 春です。暖かくて、桜も咲いて、・・・・、ととてもいい季節ですが、
外来は不調です。

 私自身も、不調で(急性腸炎)外来を休んでしまったので、人のことは言えません。

 でも、皆さん本当に春はつらいようです。

 外来に来てくれている発達障害の人たちも、いらいら感がつらい、とか、やる気になれないという人がほとんどです。

 そんな中で、外来に来てくれて、なんとかやれたら、と思うのですが・・・。これがむしろ逆に作用することが多いので、多少お薬を増やすことはありますが、最近ではたいてい「季節のものだから」ということで、様子を見てもらうことも多いです。

 完全に暖かくなる(むしろ、暑くなる?)6月くらいになれば、みなさん好調になって、いい感じになれるのです。

 それまで待てそうなら、待っていただいたりしています。

 頼りにならない医者ですが、そのほうがいいときもあって、あまり余計なことをしないようにしていますが物足りないという人もいるようです。