2009年4月15日水曜日

魔法使いのおばさん

 私の外来では、しばしば、ご本人ではなくて、親御さんが本人のことを心配して「相談」という形で受診されることがあります。

 遠回りなようですが、意外とこうすることが本人と出会う近道なのです。

 でも、「いずれ本人にお会いしたい!」という気持ちは、微塵も見せずに淡々と親御さんと出会って話をして、親御さんに安心してもらうというのが、大事なスタンスです。「いずれは本人に」という様子をあまり見せると、ご本人が腰が引けてしまうからです。

 ただ、親御さんにしてみれば大変なことです。本人がいつ受診するのかというみとおしが持てないまま、延々と自分の安心のために精神科に来続けるのは、実は大変な努力が必要なのです。仕事の調整、本人に何と話をするか、おじいさんやおばあさんに何と話をするか、などなどです。

 それをやってみてください、と私は言うわけです。

 先日も外来でそういうことを話したのですが、その時私がふと思い出したのが、童話で12人の王子様が悪い魔法使いに白鳥に変えられてしまい、末の妹がたった一人で、イラクサで服を編んでいけば元に戻ることができるだろう、と言った別の魔法使いのことです。しかも、服を編んでいる間は、一言も口をきいてはならない、というのです。

 やたらとこの魔法使い、「大変だよ」ともったいをつけていたのを子どもの頃に、「ずいぶんいろいろ言うなあ」と思った記憶があります。

 大変は大変だけど、やってやれないことはないし、と思ったのです。

 今、その魔法使いと同じように私は、「親御さんが、精神科に受診し続けるのは大変ですよ」ともったいをつけているつもりはなくても、いろいろというわけです。

 親御さんから見れば、私は魔法使いのおばさんでしょう。

 その魔法使いのおばさんが、どんなことができるのか、一緒にやっていけたら、といつも思ってい外来をしています。

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