2008年8月9日土曜日

医者の「ワーキングプア」

2008. 7. 31

堤未果氏(ジャーナリスト)に聞く

医師すらも貧困層に転落する米国の現実

千田敏之=日経メディカル


 イラク戦争を続けるアメリカで、中間層が新自由主義政策によって貧困層に転落する実情を多面的にルポルタージュした「ルポ貧困大国アメリカ」。永六輔氏の「大往生」(1994年刊)以来の岩波新書の大ベストセラーとなった同書の著者・堤未果氏に、日経メディカルの千田敏之編集長がインタビューした。『日経メディカル』8月号に掲載した記事のエッセンスをお届けする。

 ※ インタビューの詳細は『日経メディカル』最新号(2008年8月10日号)をお読み下さい。



つつみ みか氏○東京生まれ。ニューヨーク市立大大学院国際関係論学科修士課程修了。国連婦人開発基金、アムネスティ・インターナショナル・NY支局員を経て、米国野村証券に勤務中、9.11同時多発テロに遭遇、以後、ジャーナリストとして活躍。『ルポ貧困大国アメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞受賞。

――執筆のきっかけは。
 2006年出版の前著の『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』(海鳴社刊)では、貧困層の高校生が軍にリクルートされ、イラク戦争に行かされている現実など、戦争をテーマに、マイノリティーが国の捨て駒にされている実情を書きました。

 出版後も取材を続けていくうちに、大学も出て仕事にもきちんと就いている中間層の人たち、さらには社会的に尊敬されていた医師や教師といった人たちの中にも貧困層に転落し、低所得者食糧配給を受けているケースが少なくないことが分かってきました。今年の『文藝春秋』6月号に医療過誤保険の負担で年収が2万ドル以下になった医師のことを書きましたが、それは決してまれなケースではありません。

 なぜ中間層、さらには医師までもが転落するようになってしまったのか。最大の原因は、競争と規制緩和を推し進めて、これまで政府がつかさどっていた、医療や教育さえも市場原理に任せてしまおうとする新自由主義政策にあります。新自由主義政策はレーガン政権のころから、大企業を減税し社会保障費を減らすという形で展開されてきましたが、特にそれが顕著になったのはブッシュ政権になってからです。

 2001 年の9.11同時多発テロを機に、米国はイラク戦争に突入しました。アメリカは現在、「テロとの戦い」を名目に戦争に毎月160億ドルという途方もないお金を費やしています。そのしわ寄せが、公的医療費など社会保障費の大幅削減につながり、病気にかかるだけで医療費が莫大なため、今まで自分は別だ、大丈夫だと思っていた中間層の人すらも転落していく。その事実を知ったときはとてもショックでした。

 でもよく考えたら辻褄は合います。中間層がしっかりといるときは、競争原理を入れなくても国内でモノが消費されていく。ところが、中間層が減り、消費が萎んできたとき、それを喚起させるには、より安いモノを海外から入れなければならない。すると国内の製造業が駄目になり、そこで働いていた中間層が落ちていく。

 そういったことが見えてくると、これはアメリカだけの問題ではなく、国を超えて世界で起きていることではないかと考えるようになりました。その視点で日本を見てみると、小泉政権が様々な規制改革を行い、アメリカを後追いする政策を推し進めていた。そこで、もっと突っ込んでアメリカの状況を伝えようと考え、新たに取材をして書いたのが『ルポ貧困大国アメリカ』です。


(以下、psycho)

 医療訴訟のために、所得の9割をさかなくてはならない・・・。信じられません。

 私は、現在私個人と病院との契約なので、医師賠償保険に個人で加入しています。それはそれで必要なことだと思っています。それは、年収の0.4%強の金額で、医療事故一件当たり1億円(最高額支給の場合)というものです。

 毎年、4月に更新ですが、これを使わないように、と祈りながら、振り込みをしています。


 とはいえ、私は精神科医ですから、外来に来ている人たちになにかあれば、これを使うのだろうと思ってはいます。その日は来てほしくないし、怖い・・・。


 この保健の金額が膨大に膨れ上がってしまうような、そんな外来だとしたら、患者さんに会うこと自体が怖くて、とてもやりきれなくて、医師をやめるでしょう。


 これが、アメリカの実情を私に引き寄せたシミュレーションです。これは単に私個人の問題ではないでしょう。日本の医者全員がこのように感じる可能性が高まるわけです。そのとき、わざわざ医者を続けることを選ぶ人がいるでしょうか?


 医者の数が著しく減少した場合、いったい誰に受診したらいいのでしょうか?たとえば、不慮の事故に子供があってしまった場合、小児科医はいないということになりかねません。


 これが、アメリカが素晴らしいと思っていた日本のなれの果てでしょうか?はたして、これが私たちの望んでいた世界なんでしょうか?


 


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