2008年07月23日 救急医療の危機◆Vol.5
"コンビニ受診"は看護師がトリアージ
武蔵野日赤で14の症状別マニュアル作成し実施、「軽症患者」は6~7割
武蔵野赤十字病院(東京都武蔵野市)は、
2003年から救急外来を受診する全患者に対して看護師がトリアージを行っており、一定の成果を上げている。「重篤な患者を迅速に診察できる上、待ち時間が長くなりがちな軽症患者であっても、看護師がまずトリアージを行うため不満は少ない」と、救急センターの看護師長の渡辺美奈氏はそのメリットを語る。
同院の救急センターは、救命救急センターと救急外来から成り、1次救急から3次救急までを担う。同センターの患者は1日当たり約100人(2007年度の実績は年間3万7538人、うち3次救急患者は1568人)、1日約20台(同7832台)の救急車の搬送を受け入れている。
トリアージは自ら来院した患者(一部、救急車による搬送患者も含む)を対象に行っている。「赤」=直ちに診察室に誘導、「黄」=医師に報告(早めに診察してもらえるよう配慮する)、「緑」=様子観察(症状悪化時、申し出るよう指導)の3段階で実施。トリアージの結果は、「赤」が1 割未満、「黄」が2~3割、「緑」が6~7割という割合だ。
「緑」の中には、"コンビニ受診"的な患者もいるという。院長の富田博樹氏は、「時間外の患者数の多さは当院でも問題。ただ、医療者側から見れば時間外に来なくても済む患者でも、患者側からすれば不安だから来院する。苦しみや痛みなどの除去だけでなく、患者の不安の解消も医療の重要な役割。またタクシーを使って自分で来院する患者の中には、重症な人もいる。様々な患者が来院する現状をどう受け止め、対応策を考えるかだ。一概には『来るな』とは言えない」と語る。
「患者の不安をいかに解消するかが重要」と語る、院長の富田博樹氏。 |
トリアージは「リーダーナース」が実施
救急センターの看護師は常時4~6人の体制だ。うち一人は、同院の救急センターで一定の経験を積んだ「リーダーナース」。頭痛やめまいなど14の症状別に、独自のトリアージマニュアルを作成しており、「リーダーナース」が、受付を終えて待合室で待つ患者の元を訪れ、問診やバイタルサインの測定などを行い、マニュアルに沿って3段階でトリアージを行う。
特定の部屋で患者を診るのではなく、看護師が待合室に出向くのは、既にトリアージした患者の状態が変化していないかなど、目を配る目的もある。
「救急センターの待ち時間は、平日の時間外では30分から1時間、休日は2~3時間に及ぶこともある。ただ、まず看護師が診ることで、患者の不満は軽減する」(救急センター看護師の吉田恵利子氏)。
救急センターの診察申込書。下段に「トリアージ」の所見を記載する形式になっている。 ※画像クリックで拡大 |
救急患者はピーク時は年間4万人近くに
看護師によるトリアージを試験的に開始したのは2001年のことだ。1999年から3次救急を担当する医師を6人採用(現在は9人)し、1~2次救急と3次救急は異なる医師が担当する体制に変えた。体制充実を機に、それまで年間2万5000人程度だった救急外来の患者数は、一気に3万8000人程度まで増えた。
トリアージ導入の中心的役割を果たした看護師の西塔依久美氏は、次のように語る。「従来から看護師は、受付の際に気になる患者には目を配るようにしていた。しかし、全員ではなかったため、『なぜ、あの人だけ診てもらえるのか』など、かえって看護師が患者の厳しい視線にさらされることもあった。一方で、目を配っていなかった患者の中には、待合室で状態が悪化した方もいた。これらの問題を解決するため、さらには長期化していた待ち時間を短縮するため、看護師によるトリアージを開始した」。
左から、吉田恵利子氏、渡辺美奈氏、西塔依久美氏。 |
導入当初は、トリアージの仕方を学ぶため、
医師と看護師などによる症例検討会なども行った。実は結果的には待ち時間は短縮しなかったものの、患者の不満は激減したという。「現在、小児のトリアージマニュアルがないので、その作成が今後の課題」(西塔氏)。
「入口」は拠点化、「出口」はネットワーク化
救急医療をめぐっては、軽症患者の受診だけでなく、「患者の受け入れ困難」も大きな問題だ。これは、(1)「入口」、つまり患者の受け入れに適切な医療機関をどう選択するか、(2)「出口」、つまり空床を確保するため、後方病床といかに連携するか――が重要になる。
武蔵野赤十字病院は、「入口」の部分では、拠点タイプ。所在地である武蔵野市の救急車の8~9割は同院で受け入れている。また診療圏は広域で、主な救急車の受け入れ先は7市区に及ぶ。救急経由の入院患者用に30床を用意。入院の翌日には次の救急患者のために、各科の病床に移ってもらうか、地域の病院に転院する条件で患者を受け入れている。つまり、救急の「出口」については、地域でネットワークを組んでいる格好だ。
一方、舛添要一・厚生労働大臣が視察した江戸川区は人口約67万人に上るが、拠点となる大規模の病院はなく、「入口」と「出口」ともに小規模の医療機関が連携して対応するという、典型的なネットワーク型の救急医療を展開している(『「箱モノ」を作るより、現場の医師に手当を』を参考)。
現在、厚生労働省の「救急医療の今後のあり方に関する検討会」では、救急医療のあり方について検討が進められており、7月30日に「中間取りまとめ」が公表される予定だ。「今ある資源をどう有効活用するかという視点が重要なのではないか」。こう富田氏は語っている。
(以下、psycho)
以前から、救急外来ほど大事なセクションはないと思っていたのですが、なかなかそれを表現できずにいました。ただ、重症だから救急外来を使うに値するというわけでもないだろうと思っていましたが、じゃあどうしたらいいのか、という視点はあれど、方法が分からずにいたのです。
救急外来には、精神科の患者さんがかなり来ると私は思っています。現に、北海道のある大学の救急外来では(2001年前後のことです)、10例に1例前後の割合で自殺企図(=精神疾患では自殺がおおいので、この場合は精神疾患と考えます)がありました。 だからこの記事の武蔵野赤十字病院のように「・・重症な人もいる。様々な患者が来院する現状をどう受け止め、対応策を考えるかだ。一概には『来るな』とは言えない」とは、現場の実感だと思います。
看護師さんに、トリアージ(重症度分類)をしてもらうのは、医師不足の折、救急にとっては苦肉の策でも、ありがたいことと思います。
この後、どんな風に引き継ぐのか。
むしろその方が大事かと思います。特に、精神疾患の場合。
もしかしたら、軽症である人たちの中に、精神疾患の人がいるのかもしれない。DVや虐待の被害者がいるのかもしれない。そういう視点はあるのかな・・・。
それがあれば、トリアージをすることの意味は広がりそうだと思います。
トリアージを看護師さんにお願いして、その後、どうするのか。一件一件にカンファレンスでというわけにはいかないかもしれませんが、少なくとも、あれ?というケースでは、看護師さんも医者も、自分の「あれ?」に付き合ってほしいと思っていました。
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