2008年8月29日金曜日

アスペルガー症候群の少年たち

 今、「発達障害とメディア」(野沢和弘著、現代人文社)を読んでいます。まだ途中なんですが、私の思っていた以上に発達障害の人たちが、「犯罪につながる」と思われているのだろうか、と暗澹たる気持ちになりました。

 私の外来に来てくれている、アスペルガー症候群(と私が診断した)の少年のお話を思い出したから、余計に暗い気持ちになったろうと思うのですが・・・。彼らは、本当に繊細で、かわいい(といったら失礼かな?私のようなおばさんが言うから大丈夫と思うのですが)ところがたくさんある人たちです。

 Aくん。中学生です。お父さんとお母さんがホワイトカラーの仕事をされていて、お二人から「何とか診断名を伝えてほしい。自分自身の問題と向き合って、今後に生かしてほしい」と、かねてから依頼がありました。
 私としては、いずれそんな日が来るだろうけれども、今からそんな・・・と、はっきりと言葉にできないのですが、解せない気持ちが募っていました。
 Aくんにいよいよ診断名を伝えないと、というその日の外来でした。
私「Aくん、なんでここの外来にきてるか、その理由、知りたい?知りたかったら、話すけど」
 私も及び腰ですね・・・。
Aくん「いや、いい。知りたくない。聞きたくない」
私「そっか」
Aくんは下を向いてしまいました。彼の話をまとめると(話が飛んでいくことが多いので)、自分はここにきて薬を飲んでいるし、だから何か具合が悪いんだろうとわかっている。でも今の状況で友達もいるし、学校はたのしい。今のままの状況が続くのなら、自分がどうしてここへ来ているのかどうか、知らなくてもいい。知りたくなんてない、そういうことでした。

 繊細って、こういうことをいうのかしら・・・、と私はなんだかせつなくなるような、Aくんが可愛いなあと思えたというか・・・。

 確かに彼のいう通りです。知らなくても、毎日が楽しいし、知ったからといってアスペルガー症候群がよくなるわけではない。薬を飲んでいることで、結構うまくやれているし、いいんじゃないかと私も思いました。

 お父さんとお母さんには、いずれAくんが知りたくなった時に伝えたいし、それまでAくんが私に信頼というか、安心を覚えられるくらいになっておこうと私は思う、そう伝えました。お二方とも、よくわかってくれました。

 Bくん。アスペルガーと診断されて、2年目です。中学生です。感情表現が下手ですが、気のいい彼は学校で、その気の良さにつけこまれてしまいがちで、不登校をしています。

 ある日の外来で、なんだかやけに今日は、気持盛り上がってるなあと思いました。
私「なんかさあ、今日、気持盛り上がってない?」
Bくん「えー?そんなことないっすよ」
私「なんかいいことあったの?好きな子とどっか一緒に行けたとか」
Bくん「いやー、そんなこと、ないないないないない!!!」
真っ赤になって、照れるBくん。かわいいなあ。

 後でお母さんに聞いたところ、その日はBくんの大好きなお兄さんが久しぶりに帰省する日だったそうです。彼にとっては、すごくうれしいことなのですが、どうもお兄さんが返ってくるのを喜ぶのは彼の美意識にとっては、どうかと彼は思ったらしく、話してくれなかったようです。

 アスペルガー症候群と診断された彼らと一緒の診察室にいて、一度も私は危険だと思ったこともないですし、危険な目にあわされたこともないです。むしろ、こんなにかわいいところを見せてもらっていいのかしら・・・というくらい、彼らは素敵な人たちです。

 どうかこのまま彼らが、いやな気持になったり、自暴自棄になったりせずに暮らしていけますように。わたしはいつもそう思っているのですが・・・。

 皆さんにもそう思ってほしいのですが、どうしたらいいかなと思い、こうしてブログにしたためました。

 ちなみに、Aくん、Bくんとも、彼らのことをどこかで誰かにお話しするということについては、了解もらっています。ただ、個人が特定されないように、配慮しています。

0 件のコメント: